OECD、日本の解雇規制緩和を提言

今朝の日経新聞に掲載されていました。

 経済協力開発機構OECD)は十三日、日本の労働市場に関する分析を公表した。正社員とパートなど非正社員の保護度合いを独自に指数化して国際比較したもので、正社員と非正社員の保護度合いの差は日本が主要七カ国で最も大きかった。女性の就業率も他国に比べて低く、雇用市場の流動性を高める改革が必要としている。

 日本では米国などに比べ正社員を解雇しにくいなど、保護に関する法制が比較的手厚い欧州型になっている半面、パートなどは米国型に近く、保護度合いが不均衡になっていることが背景にあるとみられる。一九九〇年代の長期不況期に正社員の雇用が相対的に守られ、新卒採用が絞り込まれると同時に、コスト削減のために非正社員を増やす原因にもなった。
 報告書は正社員の「過保護」の緩和とパート社員の待遇改善を同時に進めることが、働く側と雇う側の選択肢を増やすとしている。
(平成19年2月14日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、けっこうもっともな話のような気もします。
現実に取り組むとしたら、重要なポイントとなるのは「解雇の自由化」とか「同一労働同一賃金」とかいった単細胞な原理主義を振り回さない、ということでしょう。正社員の解雇規制を緩和して「正社員の非正社員化」を進めれば、多くの日本企業が競争力の源泉としてきた「長期雇用による、長期間の人材育成・人材投資と、その長期間の回収」という人材戦略が不可能になります。また、いわゆる非正社員については、景気変動などに対応しつつこうした人材戦略を進めるために必要な柔軟性を確保するための補完的な位置づけにあるわけですから、やはりこの保護を単純に強めることは企業の人材戦略、経営戦略に大きな悪影響を及ぼすでしょう。
つまり、大切なのは「働く側と雇う側の選択肢を増やす」という目的を達することであり、「正社員の「過保護」の緩和とパート社員の待遇改善を同時に進める」という方法ではありません。問題は、わが国の労働市場OECDが「過保護」(私は適正保護ではないかと思っていますが)とする正社員と、待遇が比較的高くない非正社員とに分かれてしまっていて(なんなら「二極化」と言ってもいいかもしれません)、その間の選択肢が乏しいところにあるのだと思います。その原因が、たとえば雇用契約期間について、期間の定めのない契約でなければ、原則3年例外5年までの有期契約しか認めないといった硬直的な労働法制にあることは言うまでもありません。
重要なのは、現在の正社員と非正社員との間に、より多様な労働契約の可能性を拡大することだろうと思います。企業に強く拘束され、能力に占める企業特殊的熟練の割合が高く、解雇も法的に強く制限される正社員としての契約も従来どおり可能としたうえで、たとえば職種や勤務地などを限定し、当該職種や勤務地などがなくなれば労働契約が終了するという契約(企業の指定する職種や勤務地への変更に応じれば契約を継続するという特約を加えることも考えられます)や、期間の定めは設けないものの、生産量や売上高が減少した場合には解雇されることをあらかじめ定めた契約、3年間は試用期間として解雇の可能性があるが、その後は正社員への転換を予定した契約、あるいは営業赤字の際には労働条件を下方修正することをあらかじめ定めた契約なども可能にしていくことで、選択肢を多様に拡大していくことが望ましいと思います。有期雇用の反復更新にしても、あらかじめ「1年を5回更新したら正社員に転換」とか、「何回反復更新しても、経営状況によっては雇い止めを行う」とか、取り決めをすることでさまざまな形態を可能にしていくことが望ましいと思います。働く人にとっても、収入を重視するのか、雇用の安定が重要と考えるのか、あるいは職種や勤務地などを大切にするのか、勤務時間などの自由度の高さを求めるのか、といったさまざまなニーズに応じて、いろいろな契約の選択肢があることは望ましいことではないでしょうか。当然ながら、優秀な人材に対しては高収入で安定した契約を提示しなければ確保は困難になるわけで、企業としても人材確保と処遇、待遇との関係を十分に考慮して人材戦略を企画してくることが求められるでしょう。
もちろん、そうした政策の結果、格差拡大とか貧困とかいう問題が起こるというのであれば(本当に問題が起こるのかはわかりませんが)、適切な再分配政策を採用する必要はあるでしょうが、労働契約のあり方を制約し、画一化するような政策をとるべきではないだろうと思います。