年の初めに春闘前哨戦

年初の報道は「今年の展望」といったものが多くなりますが、賃上げの見通しについてもいくつか報じられています。たとえば、産経新聞では、

 産経新聞が全国の主要企業120社を対象に実施したアンケート調査によると、国内景気が拡大していると認識している企業は全体の約90%に達した。また、60%以上の企業は景気拡大が少なくとも「今年いっぱいは続く」と判断している。

 平成19年3月期の連結業績見通しは、4期連続の最高益が予想されているが、来期も好業績が続くとみる企業が多い。明確に来期の業績見通しを回答した59社のうち、48社が増収、49社が増益になると予想、ともに回答企業の8割を超えた。

 今年の春闘で「賃上げを予定している」とした企業は4社。「前向きに検討したい」「賃金原資の積み増しを検討している」を合わせても11社に過ぎず、逆に25社が「予定していない」と回答した。「収益アップにはボーナスで応える」とした企業は31社あったものの、固定費の増加につながる賃上げに対して、企業側はなお慎重な姿勢を崩していない。
(平成19年1月4日付産経新聞朝刊から)

記事全体をみると120社から回答を得ているようですから、実際にはそのうちの36社しか態度を表明していないということで、大半は「未定」ということでしょう。経団連は横並びの賃上げに否定的ですが、個別企業としてみればやはり同業他社や世間一般の「横」が気にならないわけもなく、現時点では様子見を決め込んでいるというところでしょうか。
毎日新聞も似たようなものです。

 07年の日本経済の見通しを探るため、毎日新聞社は昨年末、国内主要企業120社を対象にアンケートを実施した。日本経済の現状については83%の企業が「緩やかだが回復している」との認識を示した上で、07年の日本経済は「現状並みで推移する」との回答が63%を占め、緩やかな景気回復が続くとの予測が多数派だった。

 自社の現在の業績が「非常に良い」「良い」と答えた企業は計53%。07年度の業績が06年度より「かなり良くなる」「やや良くなる」とした企業も同じ計53%だった。ただ、08年春の新卒採用を「増やす」企業は22%、現在の賃金水準を改善する考えがある企業は17%にとどまり、好業績を雇用拡大や賃上げにストレートに結びつける動きは弱い。
(平成19年1月4日付毎日新聞朝刊から)

自社業績については産経の調査とかなり違う結果になっていますが、これは産経が「明確に来期の業績見通しを回答した59社」に限っているからでしょうか。明確に回答するところは業績に自信があり、回答しないところは自信が持てていないという傾向があるというのはありそうな話でしょう。「現在の賃金水準を改善する考えがある企業」が17%というのも産経よりはだいぶ高い数字ですが、いずれにしても残り83%の相当割合は「未定」ではないかと思います。未定が多いということは、「慎重な姿勢」「ストレートに結びつける動きは弱い」には違いありませんが、結果がどうなるかは必ずしもこれだけでは予測がつかないものがありそうです。なお、採用を増やすという企業が少ないのは、07年春がすでにかなり高い水準になっているからかもしれません。
いっぽうで、政策サイドには企業の賃上げに期待する意見も強いようです。

労働分配率をめぐっては政府内からも、「国民皆が景気拡大を実感できるよう、できるよう尽力してほしい」(安倍晋三首相)、「企業から家計への循環が日本経済をさらに発展させていくということに思いをはせてほしい」(甘利明経済産業相)などと企業側に配慮を求める声が相次いでいる。
(平成19年1月6日付毎日新聞朝刊から)

これに関しては企業もまったく否定的というわけではなく、たとえば経済3団体の賀詞交換会では、

…「今年の賞与は上がる」(KDDIの小野寺正社長)などボーナス増額に前向きな発言は相次いだが、賃上げについては「一律に賃上げする時代ではない」(王子製紙の鈴木正一郎会長)と慎重。トヨタ自動車渡辺捷昭社長も「業績がよかった分は一時金で対応していく」とした。こうしたなかで、日本郵船宮原耕治社長は「一般論だが、もう一度ベースアップについて考える時期にきているのではないか」と指摘した。
(平成19年1月6日付産経新聞朝刊から)

ということのようです。経営環境、競争条件を考えると固定費を増やすことは難しいが、賞与の増額で「企業収益をより多く家計に分配」「企業から家計への循環」を実現しようということでしょう。もちろん、固定費を増やしても大丈夫という自信があればベースアップもすればよいということで、宮原社長の発言も「自社はともかく、上げられるところは」という意味合いではないかと思います。

  • 経団連の経労委報告も、昨年版まではそういうトーンで書かれていました。それをマスコミに「ベア容認」と報じられたのに懲りたのか、今年はそうした表現はなくなっているようですが。

まあ、固定費であるということは簡単には減らないということの裏返しであるわけで、その確実性が個人消費増につながる、という考え方もあるだろうと思います。労働サイドは、多くの労組が久々にベアを獲得できた昨年と較べても経済環境は改善しているということか、強気の要求を打ち出そうとしているようですが、さてどんな結果が出るでしょうか。