佐藤博樹・堀有喜衣・堀田聰子『人材育成としてのインターンシップ−

はまぞう」でリンクを入れられなかったのですが、キャリアデザインマガジンの前号のために書いた書評です。


 『人材育成としてのインターンシップ−キャリア教育と社員教育のために−
  佐藤博樹・堀有喜衣・堀田聰子著 2006.10.20 労働新聞社


 私は採用担当者ではないが、人事部の管理職クラスだということで、採用試験の応援にたびたび駆り出されてきた。その面接の場で、インターンシップの話題が出ることもたびたびあった。
 ある学生さんは、採用面接の自己PRで真っ先にインターンシップの経験を語ってくれた。魅力的な若手社員とともに重要性の高い業務に取り組み、仕事の難しさや面白さを知ったことを生き生きと話してくれたことが今でも印象に残っている。逆に、何社もインターンシップを経験しているのにこちらから訊ねるまでその話は出さない学生さんもいた。感想をたずねたところ、「どこでもアルバイトと同じような仕事をさせられたので…」と言葉を濁していたことが記憶に残っている。
 インターンシップはかなり普及してきたようだが、現実はまだまだ手探り状態で、成熟には程遠いといえそうだ。本書は、その実態を、大学、学生、企業、指導担当者といった当事者たちに対する幅広いアンケート調査をもとに計量的に明らかにし、効果的なインターンシップ実施のためのインプリケーションを示した研究書である。最初に総論がおかれ、第1部が大学と学生、第2部が企業と指導担当者からみたインターンシップの現状分析にあてられている。私は研究者ではないのであてにはならないが、ざっと調べてみたかぎりでは、わが国のインターンシップに関するまとまった研究書としては、初めて出版されたものかもしれない。
 総論で指摘されているとおり、第1部で評価の高いしくみと、第2部で評価の高いしくみとは、重なりあう部分が大きい。これは、学生・企業双方にとってメリットのあるインターンシップがありうるということを示している。その第一のポイントが目的を就業意識啓発に限定することで、学生が教育効果を求めるのは当然として、企業も学生を労働力として活用することではなく、指導担当者の指導力の向上や職場の活性化に目的をおくことが望まれる。そのうえで、学生は単位取得目的などではなく問題意識を持って自主的に参加し、ビジネスマナー研修などの事前準備を行う必要があることや、企業は適切な指導担当者をおき、指導計画やマニュアルをつくり、有意義な職場・仕事を用意するなどの環境整備に取り組む必要があることなどが指摘されている。また、多様なインターンシップが存在するなかで、学生とのマッチングを改善するために、企業がそのインターンシップについて詳細な情報を提供すべきとも指摘する。いずれも実務実感によく一致する結論であり、説得力に富む。こうした知見が実務に生かされ、わが国のインターンシップがより充実したものとして発展、定着していくことが期待される。
 将来的には、就業意識啓発のためのインターンシップは大学1年生、あるいは高校生段階にまで早期化し、大学2〜3年でのインターンシップは適職探しなどを目的としたものに高度化していくのかもしれない。実際、中学2年生での就業体験の取り組みは拡大しているし、高卒で就職する人も多いのだから、大学2〜3年生で就業意識啓発というのはやや遅いという感もあるのではないか。そう考えると、今後さらにわが国のインターンシップは変化し、多様化していく可能性がある。それと同時に、わが国のインターンシップ研究は拡大し、発展をとげていくだろう。この本はその第一歩といえるのかもしれない。
 研究書であり、読みにくい部分もあるかもしれないが、関係者にはぜひ一読をおすすめしたい。