パート社員の待遇改善

季刊労働法連載期間中のネタです。先週木曜日の日経新聞の1面で報じられていました。

 厚生労働省はパート社員の待遇改善を企業に義務付けるため、パートタイム労働法など関連法の改正の検討に入った。より多くのパート社員を厚生年金や勤め先の健康保険に加入させるよう条件を見直す。正社員並みの長時間労働や責任を課している場合は、賃金などで同等の待遇を求める。…
 正社員は厚生年金と勤め先の健康保険に加入し、派遣社員も多くが派遣元の制度に入っている。しかし勤務時間が短いパートの場合、厚生年金・健保に強制的に加入する条件は「正社員の4分の3以上の労働時間」と、ハードルが高かった。厚労省はこの条件を「2分の1」に緩和する案を軸に検討する。…
 パートが正社員と同じような仕事をしているにもかかわらず、勤務時間を一日7時間半などに抑え、割安な賃金で働かせている企業には、賃金などの待遇改善を義務づける。違反企業に是正を勧告するほか、悪質な例は企業名公表も検討する。「正社員並み労働」の基準は審議会で詰める。
(平成18年6月29日付日本経済新聞朝刊から)

正社員が1日8時間・週40時間だとすると、4分の3といえば1日6時間で週5日(平日毎日)、あるいは1日8時間だと週4日弱ということで、たしかにこれは若干高いハードルです。記事によれば2005年に1,266万人いるパートタイマーのうち380万人にとどまるとか。これが2分の1になれば、1日4時間で週5日、あるいは1日7時間で週3日でも対象になります。記事によるとこれで新たに300万人以上が対象になるそうです。


私は社会保障加入対象の拡大は望ましい施策ではないかと思います。社会保険料は労使折半なので企業にとって負担増だとの議論がありますが、こうした制度的な人件費増はたしかに足元では短期的にコストアップとなり、パートの比率の高い流通などではかなりの影響があるでしょうが、中長期的に見れば賃金水準や雇用量で調整されてしまいますから、長い目でみて企業経営にとってそれほど大きな影響はないはずです。働く人は保険料負担と賃金抑制は痛いかもしれませんが、これまた将来的には保険給付があるわけですから損失ということではないでしょう。であれば、長期的な生活の安定という意味で社会保障の対象とすることは悪い話ではないと思います。
いっぽうで、待遇改善を義務付けるというのはいかにも筋が悪い話です。6月26日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060626)で正社員と有期雇用の均等待遇について書きましたが、正社員とパートでもほとんど同じことです。「正社員並み労働」の基準、と簡単に云いますが、誰にそんなものが作れるでしょうか。仮になんらかのものが作れるとしても、それは使用者にしかできないのではないかと思います。企業経営上の労働の価値は、使用者にしかわからないだろうからです。
もっとも、本当に所定労働時間が短いだけで、あとは正社員と同様に働いて、長期雇用・内部昇進でキャリア形成するいわゆる「短時間正社員」のようなものが普及してくれば、それは均衡処遇も大いに考慮されるべきでしょう。ただし、その場合も、法律で義務付けたり、行政が指導監督すべきものではなく、あくまで企業が適切な処遇を行う上でそうなっていくというのが筋だと思います。実際、ある程度長期にわたる一時的な短時間勤務、たとえば育児短時間勤務などについては、賃金を時間割で控除することが一般的に行われているのではないかと思います。