社会人基礎力

やはり2月5日の、こちらは日経新聞の記事から。

 企業は採用する大学生に協調性や行動力など社会人としての「基礎力」を求めているが、学生にはうまく伝わっていない―。
 経済産業省がまとめた「社会人基礎力に関する調査」で、就職に必要な資質を巡って企業と学生に認識のずれがあることが分かった。入社前の想像と入社後の現実が食い違い、「あきらめが早い」新入社員が生まれる原因になっている。
 企業は組織で仕事を進める。このため、学生を採用するときに重視する点もコミュニケーション能力や責任感、マナーなどとする企業が、取得している資格などを挙げる企業よりも多い。
 こうした考えが学生にうまく伝わっているかどうかでは、企業の85%が「採用基準は明確」としているのに対し、学生は61%が「採用基準があいまい」と回答した。社会人としての常識が身に付いていることが採用基準と言われても「ぴんとこない」状態がうかがえる。
 経産省は「かつて常識といわれた能力がない学生が多いのは現実で、学校や企業がこれらの能力を教え込む必要がある」とみている。
(平成18年2月5日付日本経済新聞朝刊から)

今度は「社会人基礎力」ときたもんだ。


経済産業省は「社会人基礎力に関する研究会」というのをやっていて、実はすでに7回を開催しています。座長は法政大学の諏訪康雄教授ですが、メンバーの主力は企業の採用業務の責任者です。
で、「社会人基礎力」というのはいったいなんなんだ、ということですが、この調査結果自体はまだ経済産業省ホームページには掲載されていないようです。で、公開されている研究会の議事要旨をみると、とりあえずは「チームで働く力」「前に踏み出す力」「考え抜く力」という3つに整理されていて、これはこれで要領のよいまとめだろうとは思うのですが、案の定というべきか、実務家があれこれ言えば言うほど、あれも必要これも必要という議論になって、結局はなんでもかんでもすべてが含まれてしまうような雲行きになっているようです。考えてみれば当然のことのように思います。
まあ、「社会人基礎力」のようなものが大切なことはもちろんだと思いますし、そういう人が企業から必要とされているという傾向もあるでしょう。ただ、それを就職、採用に短絡してしまうのはいかにも空論というか、筋が悪いのではないでしょうか。つい先日も書きましたが、企業は多様な人材を必要としていますし、ある一面が特に優れていれば他の側面には目をつぶるということもあります。さらに、売上が低下しているような状況では、優秀な人材が応募してきても採用できないということになることもあります(もちろん、厳しいスリム化をしている最中でも、非常に優れた人材が応募してくれば思い切って採用することもあるでしょう。まあ、そういう状態でそういう人が応募してくること自体が考えにくいわけではありますが)。逆に、売上が伸びていて人手不足であれば、多少は物足りなくてもとりあえず採用して鍛えようという気にもなるでしょう。
結局のところこの手の研究会や実態調査というのは経済産業省の仕事づくりという側面はあるわけで、またぞろ企業や学校などに手出し口出しする材料をつくっているというのが実態ではないでしょうか。厚生労働省が専門能力の認定制度のようなものを作って一生懸命運用、普及に努めていますが、企業から役立っているという声はあまり聞こえてきません。そこで経済産業省としては「社会人基礎力」に目をつけたのでしょうが、これまた格別上手くいくとは思えないような…企業が求める「基礎力」なるもの、けっこう各企業に共通な、一般的な部分もあるとは思うのですが、それにしても企業に特殊的な要素というのもかなりあるのではないかと思うわけで。
とにかく、ここまで熱心にやるのであれば、まずは経済産業省ご自身が、この「社会人基礎力」なるものに100%従って採用を行っていただきたいものだと思います。それでうまくいくということであれば、あるいは民間も追随するかもしれません。
ところで、この記事には「企業の思い伝わらず」という見出しがついてみますが、採用基準が明確かあいまいかというのはいたって官能的なもので、企業にしてみれば明確なつもりでも、学生にしてみればあいまいというのは実感に合っていますし、致し方のないところなのではないでしょうか。要するに「明確/あいまい」の判断尺度がまったく異なるということでしょう。加えて、実も蓋もない話ですが、企業の人事評価、昇進昇格基準なども同じことで、合格すれば納得するけれど合格しなければあいまいで納得いかないという感情的側面というのはどうしてもつきまとうでしょう。そういう意味ではこの結果はかなり自然なのではないかと思います。