不況が招いた就職難

日経新聞は本日の社説で『「新卒一括」が招いた就職難』と題して論じています。

 大学生の就職活動は今年も長期化している。学業に割く時間は減り、「就活」に苦戦し自信をなくす学生も多い。この状況を改めるには企業の採用改革が必要だ。
 文部科学省厚生労働省がまとめた10月1日時点の大学生の就職内定率は59.9%にとどまった。現在の方法で調査を始めた1996年度以降では最悪だった昨年度の57.6%に次いで低かった。
 なかなか内定がとれず、就職活動を長期間強いられる学生が多いのは、景気が不透明で企業が採用を抑えていることが背景にある。
 だが根本的な理由は、学生が4年生になったばかりの4〜5月に企業の選考が集中し、新卒者をまとめて採る「新卒一括」方式が定着しているためだ。春に選考に漏れると、その後面接などを受ける機会は大幅に減ってしまう。

 商社の業界団体である日本貿易会は昨年に続き、会社説明会や選考試験の時期を大幅に遅らせるよう経済界に働きかけるという。
 そうなれば今よりは学生の負担は減るだろうが、より効果があるのは企業が新卒一括方式の採用を柔軟にすることだ。既卒者採用や、4年生の秋や冬にも選考試験をする通年型の採用を広げたい。
 経団連の会員企業の7割弱は既卒者の応募を受け付けている。だが民間の調査では、既卒者を受け付けている企業のうち、7月時点で既卒者に内定を出したのは2割に満たない。通年採用は中途入社者の採用で一般的だが、新卒者で実施している企業は少ない。
 学業への悪影響を放置すれば学生の質が低下する。企業は能力の高い人材を確保するためにも採用改革に踏み出す時だ。
平成23年11月21日付日本経済新聞朝刊「社説」から)

一読してどうも意味がわかりにくいわけですが、とりあえず問題意識は「大学生の就職活動は今年も長期化している。学業に割く時間は減り、「就活」に苦戦し自信をなくす学生も多い。」ということのようです。大学生の就職活動が長期化していることで「学業に割く時間は減り」「苦戦し自信をなくす学生も多い」という二つの問題点があるわけです。
で、「学業に割く時間は減り」に関していえば、たしかに日本貿易会などが主張するように就活の開始時期を遅らせばいいことは間違いありません。それによって大学在学期間に占める就活期間の割合は確実に縮小するでしょう。卒業までに就職が決まらなくてもいいならね
まあ、それでもいいということなのかもしれません。だから「既卒者採用…を広げたい」ということなのでしょう。しかしそれだと在学中+卒業後を通じた就活期間は大して変わらないということにもなりそうで、それって学生の負担は減ってるんでしょうか。いや卒業後は学生じゃないから学生(時代)の負担は減っているんだと言われればそうかもしれませんが。それで自信をなくす人が出てきても卒業してしまえば学生じゃないんで「苦戦し自信をなくす学生」はたしかに減りますねえ。
「4年生の秋や冬にも選考試験をする通年型の採用」というのも、具体的にどうしようというんでしょうねえ。経団連が会員各社に、「年間採用用定数のうち3割を春、3割を夏、2割を秋、2割を冬に採りなさい」と指導するとでも?そもそもかつての就職協定だってろくろく守られずにフライングが横行していたわけでこらこらこら、いや「優れた人材から順に希望に近い企業に決まっていく」というのが市場メカニズムというもののはずで、そんな計画経済みたいな取り決めをしたところでおよそ機能するとも思えません。結局は優秀な学生と魅力的な就職先(このあたりの価値判断は学生・企業とも多様でしょう)から順にマッチングしていき、相対的にそうでない学生・企業のマッチングへと移っていくということにしかなりようがないのではないでしょうか。
また、仮に採用枠を本当に季節別に割り当てたところで、「それでは春夏に海外留学してそれを売りに秋冬の枠に挑もう」という学生さんがどれほどいるものか、まあほとんどの学生さんは春から就活をはじめるのではなかろうかと思われます。たとえばもし来春もユーロが現在のような状況だったとしたら、夏ごろにクラッシュして大不況になってほとんどの企業が「夏以降の採用はやめます」ということになるという事態も想定する必要があるわけですし。で、第一志望群の企業に春、夏、秋、冬と4回アタックして、4回ミスして決まらないままに卒業…ということになってしまうリスクがかなり高そうです。この場合、決まったときに備えて卒業はするでしょうから留年するという選択肢もなくなってしまいます。
ということで、「景気が不透明で企業が採用を抑えていること」こそが根本的な問題であり、もし景気が好調で企業の採用意欲が旺盛なら、いつ開始しようが短期間でどんどん決まっていくわけですよ。逆にいえば、企業が採用を抑制している時期にはいつ始めてどんなタイミングで採ることにするにせよ長期化せざるを得ない。「既卒者を受け付けている企業のうち、7月時点で既卒者に内定を出したのは2割に満たない」というのも、結局は企業の労働力に対する需要が弱いからでしょう。もちろん新卒一括採用が経済環境により早期化(これは好況期に多い)・長期化(こちらは不況期に多くなる)を招きやすいといった問題はありますが、現状のような不況期に新卒一括採用をやめたら(どうやってやめるのかという問題がありますが)未熟練の新卒者の就職は一段と苦戦となるでしょう。コラム記事ならともかく、社説がこれではお粗末のそしりは免れないのではないでしょうか。