菅野和夫『労働法第七版』

労働法 (法律学講座双書)

労働法 (法律学講座双書)

言うまでもなくわが国の代表的な労働法の教科書で、今回改訂で第七版となりました。私自身も、今をさること十数年前、初めて人事労務の仕事に就いたときに、職場の書棚にあった『労働法第二版』を渡されて勉強したことが懐かしく思い出されます。社会で「働く」人々にとって労働法は本来身近なものであるはずで、この教科書は労働法研究への入門に限らず、むしろ企業の人事担当者や管理監督者、紛争処理にあたる実務家、ひいては働く人それぞれにとっての「労働法」の手引き、という側面が強く意識されているように感じます。おそらくは、それもこの教科書が広く採用され、学ばれていることの理由のひとつなのだろうと思います。


権威ある教科書ですし、私が内容そのものについてあれこれ言えるわけもなく、そもそも今回版を通読したわけでもないので、感想といっても内容についてのものにはなりません。今回手にとってみると、改定のたびに厚さを増していた本書も、これまでの縦書きから横書きに体裁を一新したことで、若干ながら前回版より薄くなりました。とはいえ、今回新たに「労働審判手続」に新たに一節あてられたほか、03年の労基法改正のなどの法改正のフォロー、新判例の織り込みなど、内容的には増えているようです。奥付をみると、初版が20年前の85年9月、以来88年4月、93年3月、95年7月、99年4月、03年4月、そして今回05年4月と改訂版が出ています。一貫してボリュームは増加しており、いかにこの間労働法制が変動し、複雑化したのかが感じられます。また、改訂の間隔をみると、比較的無風だった時期と大きく動いた時期とがあることも振り返ることができます。もちろん、労働市場や人事労務管理をとりまく環境変化は先行して進んでいるわけであり、労働法改正がいかに働く人や企業実務に配慮されながらグラジュアリズムで進められてきたかもわかります。こうしてみるとこの20年間、企業の人事担当者は法改正に振り回され続けたというくらいに法改正が相次いだわけで、それに加えて成果主義騒ぎやらで人事制度の改定もあちこちで行われていたことを考えると、この20年は人事担当者にとってもまことに受難の日々だったといえましょう(しかも、それで恨みを買いこそすれ感謝されることはまことに稀であったわけですから)。
愚痴はともかく、現在すでに均等法改正の審議会審議が進行していますし、さらには労働契約法制という超大物の審議会審議もはじまりました。相変わらず労働法は激動の日々(そして人事担当者には受難の日々)が続くわけで、本書も(遅くとも契約法制の成立時には)また大改訂が行われることでしょう。実務家必携の座右の書として、これからも頼りにしています。よろしくお願いします。