荒木尚志『労働法第4版』

 荒木尚志先生から、『労働法第4版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

労働法〔第4版〕

労働法〔第4版〕

 オビの惹句にあるとおり、定評ある「信頼の労働法体系書」の4年ぶりの改訂版です。第3版以降の法改正と裁判例を反映し、今般の高齢法改正までカバーした最新版となっており、類書の例にもれずこの本も第3版から1割近い増頁となっています。ちなみにこの「信頼の労働法体系書」という惹句は第3版、第2版と同じであり、版元(有斐閣)の自信のほどがうかがえますね。
 「働き方改革」の関連では、労働時間の上限規制については改正法に基づく記載の中に「目安時間・限度基準に基づく行政指導から強行的上限規制へ」とのコラムが設けられ、「強行的規範を労基法制定以来初めて導入した点で画期的なものであった」と高く評価しておられます。 
 一方、パート有期法に関しては、第3版では均等待遇の部分で欧州の差別禁止規制について紹介されていた「差別禁止アプローチ」と「政策アプローチ」を、第4版では「人権的差別禁止アプローチ」「政策的格差是正アプローチ」と再整理し、さらに新たにわが国における正規・非正規格差是正規制の展開にこの概念をあてはめて、2007年パート法改正以降の累次の法改正を理論的に整理しており、非常に勉強になります(p.552~)。今般の「同一労働同一賃金」をめぐる法改正については、従来の政策展開からは、典型的な人権的差別規制である「同一労働同一賃金導入論は意外感を持って受け止められる政策提言であった」と違和感を示し、「当初は文字通り同一労働同一賃金を法律上明記するとしていたが」「最終的には、労契法20条同様、「不合理な相違の禁止」という政策的格差是正規制に落ち着くこととなった」と総括しておられます。また、同一労働同一賃金ガイドラインについても、ガイドライン内の(注)において「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の取扱い」について記述があることを指摘し、「日本の多くの企業におけるように、正規労働者と非正規労働者が異なる賃金決定ルールが採用されている場合に、先のガイドラインの叙述は直接適用されるものではない」と核心を突いています。その上で、「労働条件は労使交渉によって設定するという労働関係の基本に立ち返って、不合理と評価されない労働条件設定を非正規を含めた労使で協議すべきこととなる」と結論づけておられます(pp.561-562)。
 また、昨今話題の労働時間通算規定については「…行政解釈は、使用者が異なる場合についても通算するとの解釈を採っている。確かに労働者の過労防止の観点からは、かかる規制にも一定の意義があるが、他方、複数使用者のうちの誰が時間外労働をさせたことになるのかの判定の困難、当該使用者のみが三六協定締結や割増賃金支払い義務を負うことになることの合理性、かかる規制の実効性確保の困難に加え、副業を行う労働者の増加に伴って兼業禁止の見直しの議論もある。そこで、2005年の労働契約法制研究会報告書は別使用者間の異事業通算制について見直す方向を提言している」と踏み込んだ記述がなされています。