公務員リストラと雇用対策

週末の日経新聞に、阪大の大竹文雄先生の「経済論壇から」が掲載されていました。

…長年改革を見送ってきたツケを一度に取り戻そうというのだから、制度改革にたくさんの積み残しや不備が生じるのは、ある意味当然である。いたずらに現状を批判するのではなく、この際改革の積み残しを減らし、改革をスピードアップするにはどうしたらよいかをきちんと考えてみることの方がはるかに重要なのではないか。そうしたプロセスで浮かび上がってくるのが、例えば改革が引き起こすリストラに伴う「不安」の問題である。
 現実にリストラや成果主義の浸透・徹底が人々の精神衛生に深刻な影響を与えることを私たちはここ数年、身をもって体験してきた。失業率が急上昇した98年以降、日本の年間自殺者数が3万人を超えているのは、偶然ではない。ここから読み取れるのは、社会のセーフティーネットの絶対量が足りないか、十分機能を果たしていないかのどちらかである。このように考えると、公的部門に大なたを振るう前に、公務員・準公務員を対象とした能力開発や大胆な配置転換が必要だし、希望退職の仕組みを整えたり、カウンセリングや再就職支援制度を充実したり、雇用保険への加入を義務づけることが必須条件なのは明らかだろう。
(平成17年8月28日日本経済新聞朝刊から)

まことに適切な指摘といえましょう。


経団連奥田会長は、平成14年1月11日の日経連(当時)臨時総会で、次のように発言しています。

…雇用情勢の悪化につきましては、私は、かねてから、「構造改革なくして雇用創出なし、雇用対策なくして構造改革なし」と考えております。一部には、依然として、「企業が雇用にこだわるから構造改革が進まない」として、企業の雇用維持努力を批判する意見もあるようであります。しかし、私は、これは誤った考え方であると思います。
 昨年、私は、日経連の経営トップセミナーにおきまして、かつて国鉄改革を成功に導いたのは、6万人を超える大規模な人員削減を行なうにあたり、政府が「誰一人路頭に迷わせない」という強い決意を示したことであると申し上げました。民間企業レベルにおきましても、かつての繊維メーカーの多くが、今日、総合化学メーカーとして発展いたしておりますのも、あるいは、かつてのカメラメーカーが、今では複写機ファクシミリ、あるいは半導体製造装置などへの事業構造の転換に成功いたしましたのも、雇用にこだわり、人材という経営資源をいかに有効に活用するかに心を砕いたからに他なりません。
 このような経験からわかるのは、人々は、自らの雇用が守られると信じるからこそ、改革の痛みに立ち向かうのだ、ということであります。あえて大胆に申し上げるならば、ある面では、「雇用にこだわるから改革が進まない」のではなく、「雇用にこだわらないから改革が進まない」と考えるべきではないかと思います。
http://www.nikkeiren.or.jp/h_siryou/2002/20020111aisatu.htm

私もこのときに少し調べてみましたが、ここで言及されている国鉄民営化の経験は、今後の公務員のリストラにあたって過去の成功例として大いに参考になるのではないかと思います。国鉄民営化の際の再建計画は、人員27万6千人を18万3千人に減らすという大規模なスリム化を含んでおり、うち3万2千人が民営化後の自然減、残りは公的部門で3万人、民間企業で1万人、国鉄関連企業で2万1千人を吸収するとされていました。最終的には、公的部門で2万5千人、国鉄の斡旋による民間企業への転出で2万3千人、国鉄関連企業で1万2千人を吸収し、1万6千人が希望退職しています(もう少し詳細な内容はこちら)。
ここの経験からは、「次の職を確保すること」を対策の中心とする必要がある、という重要な含意が得られるように思います。「路頭に迷わせない」ことが大切なのです。したがって、大竹氏が具体的に例示した施策の中でも、「大胆な配置転換」が最重要、最優先の課題といえましょう。また、すでに定年も近く、早期引退を希望する人には「希望退職の仕組みを整え」ることも重要でありましょう。その他の、「能力開発」「カウンセリングや再就職支援制度を充実」(「雇用保険への加入を義務づける」ことはすこし性格が異なりますが)などは、それをやること自体で終わるのではなく、現実の再就職につながってはじめて「対策を実施した」といえることになるのだろうと思います。そのためには、漠然と能力開発や再就職の資金援助などを行うのではなく、具体的な「次の職」を確保(イメージではなく、十分な可能性のあるものとして)したうえで、それに必要な能力開発や、それを受け入れる(当然、職種変更や労働条件ダウンもあるでしょう)ためのカウンセリングや支援措置を行うことが望まれると思います。