「残業代ゼロ」?

4月28日のコメント欄で、エントリと無関係な(笑)労働時間管理の話がにぎわっていますので、ここで一括してコメントさせていただきます(詳細に論じはじめると非常に長くなりそうなので、別の機会(があれば)に譲らせていただきます)。
まず、私としては、報道どおりとすれば基本的に今回の厚労省の方針は望ましいものであると考えています。日経新聞によれば、「研究開発や企画立案、編集など、働き方について本人の裁量が大きく、時間管理が難しいホワイトカラー職種に広げる。」いっぽうで「時間で成果を測りやすい工場勤務のブルーカラー職種などについては規制を強める。」ということです。これは現在でも「時間にとらわれない働き方をしたい」と考えている人を対象としている、ということでしょう。もちろん、ブルーカラー職場のように、きちんと労働時間管理をして割増賃金が支払われるべき仕事で不払残業が起きていれば、それは厳しく取り締まることが必要です。どのように適用範囲を規制するかが重要で、同じく日経新聞によれば「規制緩和が過重な労働を招くのを防ぐため、一定の所得保障や健康への配慮措置を講じるよう雇用主に義務付ける。」とのことですが、これについては他にもいろいろなアイデアもあり、今後、研究会や労使の審議会で検討が深められていくものと思います。なお、労働時間規制の適用除外になれば、たしかに残業代はゼロにはなりますが、残業という概念自体が適用されないわけですから、日経新聞の見出しはいささかミスリーディングではないかと思うのですが・・・。
この問題は誰しも多かれ少なかれ経験があることが多く、「会社にいた分全部に割増賃金が支払われればどれほどよかろうか」との気持ちは情において大いに理解できますし、過労死事件なども発生していることも事実ですが、一部の例外に過度に引っ張られたり、感情論に陥ったりすることなく、実態をふまえた冷静な検討が進められることを期待したいと思います。
以下は、4月28日のコメント欄で頂戴したコメントへの私の再コメントです。
>一般社員さん
「このような規制緩和を行う意義が総体的にわからないので恐ろしいです。」「勤労意欲やそもそも就職へのインセンティヴの低下」などとご心配のようですが、意義のわからない人は対象とならないようにすればいいのではないかと思います。残業手当より、仕事のやりがいや自分の成長・能力向上のほうがはるかに勤労意欲やインセンティブにつながるという人もいるはずです。なお、JR西日本脱線事故を担ぎ出すのはさすがにこじつけでしょう。まさか、厚労省も電車の運転士まで適用除外にしようとは考えていないと思うのですが。
ところで、「人件費が削減できるという一点だけのために、ムチャな期限での労働の事実上の強制が可能になった」というのは意味がわからないのですが・・・。
>Inoueさん
「三六協定があって、割り増し超勤手当てを払いさえすれば、無制限に残業させることができます。」というのは誤りです。労基法の施行規則で、三六協定では可能とする時間外・休日労働時間の上限を定めなければならないとされており、さらにその上限については厚生労働大臣告示で基準が定められています。
「連続30時間労働は、絶対に体に良くないし、いくら金が支払われても、休養なしに健康は回復しません。」「割増賃金のあるなしはまた別の話です。」というのはそのとおりと思います。実際、すでに平成14年2月に、時間外労働等が月45時間を超えたら使用者は産業医等の助言指導を受ける、さらに月100時間などを超えたら本人も産業医等の面談指導、といった通達が出されて行政指導が展開されていますし、今国会では、その一部を法制化する労働安全衛生法改正法案が審議される予定で、この面での規制強化は並行して進んでいます。
なお、「法律で許されれば、使える権利は限界まで使ってしまうのが使用者というものじゃないでしょうか。」というのはずいぶんな偏見ですね。1日8時間、週40時間を下回る所定労働時間を定めている企業はたくさんありますし、最低賃金を上回る賃金を払っている企業もたくさんあります。関係ありませんが「使える権利は限界まで使う労働者」だっているかもしれません。また、「現場における裁量を広く認めるとしても、その結果、健康被害が生じたら、監督者の刑事責任まで厳格に問わないと」というのはさすがに無理ではないでしょうか。安衛法には刑事罰規定もありますが、あまり結果責任で厳格にやりすぎると−たとえば、監督者がいくら止めろ、これ以上働くな、と言っても働いてしまう人が「自爆」した場合など−監督者のなり手がいなくなってしまうような気がします。
>すなふきんさん
Inoueさんご指摘のとおり、健康障害につながるのは長時間労働であり、残業代が払われるかどうかはそれほど関係はないだろうと思います。今回日経新聞が報じた規制緩和も、「健康への配慮措置」を義務付けるということで、残業代はともかく、長時間労働は規制するなんらかの方法が講じられるのではないでしょうか。