安全と効率

JR西日本脱線事故は、またしても「安全と効率」という古くからの問題をクローズアップしたようです。数年前に発生した、避難階段を倉庫がわりにしていた歌舞伎町雑居ビル火災も基本構造は同じことで、こうした事故の教訓はなかなか生かされないもののようです。万一の事故のもたらす莫大な損失を考えれば、安全こそ効率を支えるということは、今回の事故を見れば明らかだと思うのですが、その「万一」が、なかなか自分の問題としては意識されにくいのでしょう。
もっとも、今回の原因はまだ確定しておらず、おそらくはいくつかの要因が複合的に働いたものなのでしょうが、こと人事管理に限っても問題はあったのではないでしょうか。
JR西日本では、列車の遅延に対して乗務員を処分しているのだとか。JR各社の定時運行は世界に冠たるものだそうですから、乗務員の怠慢や不手際による遅延が、それを処分しなければならないほど多発しているとはとても思えません。仮に遅延が多発しているとしても、それが技能水準の問題や運行ダイヤの問題であるならば、いくら乗務員を処分してもそれらを改善しないかぎり解決にはならないでしょう。今回の運転士は過去にもたびたび処分を受け、再講習を受けているそうですが、そもそも適性に問題があるのであれば、処分と講習の繰り返しではなく、他職種への配転が必要なはずです。
遅延を直接処分することは、安全を軽視しても遅延を回避しようという行動につながりやすいことは、容易に想像できるでしょう。そのデメリットを考えると、処分で怠慢を咎めることのメリットはいかにも小さいように思われます。実際、他のJR各社や主要私鉄では遅延を処分する例はないそうです。
日本の経営史上の巨人のひとり、豊田英二元トヨタ自動車工業社長は、1955年に安全についてこう語ったそうです。

 安全な作業
 確実な作業
 熟練した作業
 安全な作業は、作業の入口である。
 わたくしたちは、まづしっかりとこの入口を通りましょう。

JR西日本にしても、当然「効率より安全」と考えているでしょうし、「利益のために安全を犠牲にした」という短絡的な批判は慎むべきだろうと思いますが、人事管理が「効率より安全」という考え方に沿ったものになっていたかどうかは確認が必要ではないかと思います。これは決してJR西日本だけの問題ではなく(国交省はJRだけでなく、鉄道各社に再点検を指示したそうです)、鉄道事業者だけの問題でもなく、あらゆる企業の問題ではないでしょうか。