ひきこもりとキャリアデザイン

日本キャリアデザイン学会の研究会に参加しました。テーマは「ひきこもりとキャリアデザイン」、講師は教育評論家の尾木直樹先生です。
ひきこもりの最大のポイントは人間関係でしょうが、もちろん就労も重要であり、尾木氏は「ひきこもりに対する職親制度」を提唱しておられました。尾木氏によれば、ひきこもりを脱して就職、就労した人が「半日でクビになりました」ということがあったのだそうで、「ひきこもりが最初から一人前に働けるわけはないのだから、もっと暖かく見てほしい。当然、行政からの助成金などの支援も必要」とのことでした。
ひきこもりについては、たしかに通常の働き方は(すぐには)難しく、生産性の低下の問題があるのに加えて、社会的な偏見(怠け者、といったような)もあるでしょうから、その就労はなかなか難しい問題だと思います。
尾木氏も言及していましたが、障害者については、法定雇用率が定められ、さまざまな助成金などもあります。基本的には障害者雇用は企業の社会的責任という位置付けでしょうが、それにともなう企業の不能率などについてもそれなりの配慮はあります。
ひきこもりに関しては、その雇用(自立支援)を企業の社会的責任として位置付けうるか、ということがまず大きな問題になりそうです。今回の研究会で「誰でもひきこもりになり得る」ということを重ねて認識しましたので、やはり社会全体で支えるべき対象ではないかとは思うのですが、まだまだこうした理解は広く浸透しているとはいえず、前述のような「本人の問題、怠け者」という意識も多いのではないでしょうか。となると、まずは「支援が必要」ということへの社会的な意識を高めることが必要になりそうです。
その後も、支援のあり方には難しい問題がありそうです。たとえば、障害者でも「支援の対象として見られたくない(自立したい)」と考えて、障害者手帳を取得しなかったり、障害者であることを公言しない人もいます。ひきこもりの人も、できれば周囲に知られたくないと思う人も多いでしょう。そういう人をどうしたらいいのか。
また、ひきこもりは病気ではない(ひきこもりの結果病気になる人はあるにしても)ので、単純に障害者雇用のしくみに乗せるのは難しそうです。となると、新たな支援の仕組みを考えなければならないでしょう。尾木氏は、現場の精神科医に「『病気』ということにしてほしい。そうすれば、医療保険も使えるし、さまざまな支援の対象にもなりうる」という声があることを紹介していましたが、ひきこもりの人本人は一律に「病気」とされることには抵抗があるでしょう。いっぽう、支援が必要か否かの判定は結局のところ医師によるしかないという感もあります。
さらに、支援を企業の社会的責務として理解が得られたとしても、生産性低下への助成をどうするかといった具体的な問題は簡単ではなさそうです。
・・・などなど、いろいろなことを考えさせられてしまう研究会でした。労働の立場からも、いろいろと考えていかなければならないのだろうと思います。
いっぽうで、尾木氏のいう「本人や家族の心情に配慮すると、具体的な調査、定量的な把握が困難な問題」ということもよくわかるのですが、やはり社会的な理解を深めていくためにはそれなりに科学的な実態把握がなければ説得力がないこともどうしようもない事実だろうと思います。情において忍びないものは大きいのですが、やはり関係者にもそれなりに社会に向き合う努力が必要なのだろうとも感じました。