小林至「合併、売却、新規参入。たかが・・・されどプロ野球!」

合併、売却、新規参入。たかが・・・されどプロ野球!

合併、売却、新規参入。たかが・・・されどプロ野球!

いささか下世話な書名ですが、内容はなかなか充実しており、非常に興味深く読ませる本でした。
著者は元「東大卒のプロ野球選手」として(のみ)有名で、それだけの知識とこの書名、そして巻末の「渡辺恒雄氏との『白熱の100時間』インタビュー」といったところだけで見ると、安易なスポーツジャーナリズムの読み物という印象になってしまうでしょうが、決してそんな軽薄な本ではありません。
むしろ、本格的な経営書として作ることだってできたのではないか、という感じがあります。実際、著者はコロンビア大学でMBAを取得、現在は江戸川大学教授として経営学を講義している経営学者(「立派な」経営学者の皆様には多々異論がありそうですが)であり、本書も決して思いつきや経験談だけではなく、事実と調査にもとづいて書かれています。
実際、私もまず最後のインタビュー、それから最終章と、逆順に読み始めてしまいましたが、これは正直いって失敗で、本書が本当に面白いのはむしろ前半部分です。ここで米大リーグを中心に、他の日米欧のプロスポーツの経営の実情が紹介されており、それが非常に興味深いのです(かなりの部分が私には初めての話でした)。そのため、それをもとにした後半の提言も、経営学の理論的背景ともあいまって、なかなか説得力のあるものとなっています。プロスポーツという身近な話題、誰でもそれなりの意見を持てるテーマであるだけに、このような事実の分析にもとづいた科学的な議論の努力が必要なのでしょう。
ちなみに、私がいちばん感心させられたのは、著者が今回の議論の中心的テーマの一つであった「1リーグ問題」について、世界一を頂点とした体系を築くには、プロアマの垣根、球団間の垣根を低くして、二部リーグ、三部リーグがある1リーグ制が望ましい、という説得力ある整理をしている点です。アスリートが、その絶頂期に、実力に応じたレベルの球団でプレイできるしくみをつくるにはこれが最善だろう思うから、また、現在のシステムでは選手のセカンド・キャリアの面で問題が大きすぎますが、それを解決する道も開きやすくなるのではないかと思うからです。
買って読んで損のない本だと思います。