コミットメントとエンプロイメント

一昨日の「経済教室」から。神戸大学教授の加護野忠男氏が、最近物故された経営学者のアベグレン氏について紹介しています。

 アベグレン氏の思想を理解するうえで、重要な意味を持っているのは、やはりこの処女作である。本書の英語版は一九五八年に出版された。著者がまだ三十歳代前半のときである。本著は、日本の経営についての古典中の古典である。
 「三種の神器」のなかで終身雇用の概念については若干の補足が必要だろう。アベグレン氏の英語の著書では、ライフタイムコミットメントという概念が使われている。コミットメントという言葉は日本語にしにくい英語の一つである。約束、盟約、忠誠、一体化などの言葉があてられることが多い。アベグレン氏が言いたかったのは、たんに雇用関係が長いということではなく、働く人と職場共同体との間に生涯にわたる強い結びつきがあるということだった。
 この本を訳した占部都美氏は、この概念を「終身雇用」と意訳し、いつの間にか、翻訳の概念が独り歩きするようになった。再び英語に訳されるときでも、ライフタイムエンプロイメントと訳されるようになった。アベグレン氏としては不本意だったかもしれない。
(平成19年5月15日付日本経済新聞朝刊「経済教室」から)

エンプロイメントといえば仕事をしてもらって賃金を払うということでしょうが、コミットメントならば必ずしも雇われている必要はないわけで、企業年金が支払われているといったことはもとより、たとえばOB会があって年一回ゴルフコンペをやっているとか、元部下の結婚式に下上司が来賓で呼ばれたり、とかいったことまで含めた概念なのでしょう。それはたしかに当時の日本企業の多くにあてはまっていたでしょうし、今でも案外根強く残っているかもしれません。エンプロイメントというなら、ライフタイムではなくロングタームでないと事実に合いません。