ビジネスガイド4月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』4月号(通巻884号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

ビジネスガイド 2020年 04 月号 [雑誌]

ビジネスガイド 2020年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 雑誌
 今号の特集は「最新 法改正と実務への影響」ということで、今次国会に上程されている法改正の解説です。賃金債権の消滅時効が注目されましたが、労働保険関係の法改正も実務対応が必要となってきます。70歳までの就業確保については、基準制度がどうなるのか、これは政省令が出てこないとなんとも言えない感じですね。
 それにしても厚生労働委員会は新型コロナで大変な状況でしょうから、これらの改正法案の審議への影響も心配されるところです。まあ必要な法案は別途淡々と審議して成立させるのだろうとは思うのですが…。
 前号から始まった八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は、今回は男女間賃金格差、特に統計的差別の解消を取り上げて解説されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は高年齢者の雇止めが取り上げられており、現在審議中の高齢法改正についても触れられています。

水町勇一郎『労働法第8版』

 水町勇一郎先生から、『労働法第8版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。
(在宅勤務と出張が続いたため御礼がたいへん遅くなり申し訳ありません)

労働法 第8版

労働法 第8版

  • 作者:水町 勇一
  • 発売日: 2020/03/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 学部向けのテキストとして定評ある基本書ですが、ほぼ2年ごとに改訂されて第8版となりました。今回はこの間の諸動向を反映して、長澤運輸事件とハマキョウレックス事件の最高裁判決を受けた不合理な待遇の禁止や、さすがにベルコ事件までは手が回っていませんがコンビニ店長の労働者性などについて記載されているのが目を引きます。あと細かい話ですが第7版では「この(長期雇用)慣行の労働者側からみた大きなメリット」となっていたのが第8版では「長期雇用慣行の労働者側のメリット」となっていたり、第7版では「非正規労働者の状況と学説・裁判例の展開」となっていたのが第8版では「非正規労働者の問題状況と学説・裁判例の展開」となっていたり、人事管理に対する評価がやや辛くなっている印象を受けます(まあこれもこの間の世間の雰囲気の変化を反映したものかもしれませんが)。
 また、はしがきによれば「本書を適度な分量でより読みやすいものとすることを試みた…全体で約1割近い減量を行った」とのことで、コラムがかなり間引きされたほか、図表などもだいぶカットされています。人事管理を長年やってきた立場からすると、第7版では4ページが割かれていた企業内紛争解決に関する解説が第8版では丸ごと消えてしまったのは非常に寂しいものを感じるわけですが、まあこれは労働法じゃなくて人事管理だろうと言われればそのとおりではあるのでしょうが…。

「ジョブ型」への道のり

 世間は新型コロナ禍と市場の混乱で大騒ぎですが、そうした中でも春季労使交渉は行われ、この水曜日には金属労協主要各社の回答が出そろって第一の山場を越えました。各労使ともに円満な解決がはかられたようでご同慶です(他人事)。
 さて今次交渉で私が注目しておりましたのが他ならぬ日立製作所労使であり、開始前にこう報じられていたわけです。

 日立製作所労働組合は13日、2020年春季労使交渉での要求を経営側に提出した。基本給のベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分として、前年と同水準の月3000円を要求した。経営側は従業員の職務を明確にする「ジョブ型雇用」への転換などの議論を進めたい考えだ。
(令和2年2月14日付日本経済新聞朝刊から)

 私はここでもかねてから「日立の労組がそれでいいならそうすれば」という趣旨のことを書いてきたわけですが、いよいよ組合と話をするらしく、さてどうなりますかと注目していたわけですね。
 そこで回答も出たということでこれについてはどうなったのかと思っていたのですが、日経ビジネスオンラインで報じられていました。「1分解説」というコラムなので本当に短いものですが、タイトルは「「ジョブ型」への道のり遠い? 日立労担が春闘を総括」となっておりますな。

 「職務記述書(ジョブディスクリプション)」に基づいて、それぞれのポストの役割と報酬を決める「ジョブ型」の雇用モデルへの転換を目指す日立製作所。すでに管理職では同モデルを取り入れているが、約10万人いる国内の一般社員に広げられるかが課題だ。3月11日に集中回答日を迎えた春季労使交渉春闘)ではどこまで議論は深まったのか。日立の労務担当役員が総括した。
 「遅くとも2024年度には定着させたい」。…次の中期経営計画の最終年度にあたる24年度にジョブ型の人材管理への転換と、それに必要な意識や行動の定着を終えたいとの見通しを示したかたちだ。
 20年度からは一般社員の職務記述書の作成に着手。まず4部門で先行し、その成果を踏まえて全部門に広げる段取りだ。…
 管理職では13年度にジョブ型への移行を始めた日立。全世界の管理職5万ポジションをランクづけし、翌年に日立本体の管理職の処遇をランクに合わせるかたちに変えた。世界各国の社員が世界の市場に製品やサービスを届けるためには、世界の標準に合わせた人材管理が必要だと考えたからだ。

 日立グループ労組も経営側に理解を示す。「グローバル化で人材が多様になる中で、いつまでも日本のあうんの呼吸でやっていくのは難しい。仕事を定義して見える化をしていこうという方針には反対するものではない」。ただし、「拙速に進めると色々な問題が出てくる」(同)。実効性を持ちつつ適切にメンテナンスできる職務記述書をつくれるのか、などをチェックしていく必要があるとみる。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/031101141/

 全体像がわからないので何とも言えないのではありますが、この記事やとりあえずウェブ上から拾える情報などから推測すると、日立さんの「ジョブ型」は「職務記述書があること」と「賃金は職務等級制度で決まること」が核心のようです。これはまあ「職務(記述書)が賃金などの労働条件と同様に労働契約の一部になっている」欧米のジョブ型に似ているように見えなくもありません。
 とはいえ、核心部分で大きく異なっているようにも思えるわけで、欧米のジョブ型の雇用契約はまさに「職務も契約の一部」なので職務の変更には双方当事者の合意が必要になるわけですが、はたして日立さんの「ジョブ型」はそういうものなのかどうか。
 ここからはほぼ想像になりますが、「まず4部門で先行」ということなので、「ジョブ型」導入の必要性・緊急性の高い部署や、職務記述書が作成しやすい部署などが先行するのでしょう。必要性・緊急性が高いのは昨今稀少性の高いデータ処理やら人工知能やらサイバーセキュリティやらの部署だと思われ、そういう部署であれば初任配属部署・業務だけではなく先々も職務変更には同意が必要になってもいいのだと割り切っている可能性はありそうです。ちなみに職務記述書が作成しやすい部署というのは圧倒的に現業部門であり、一方でホワイトカラー職場では欧米でも職務記述書を詳細に記載することがで難しくなってきて現状ではかなり大雑把なものになっているわけですね。
 さて日立さんは組合員については今後4年間かけて全体を整備するという計画のようですが、職務記述書についてはホワイトカラー職場の多くではまあ現状も職場単位で作成されている業務分担表を少し詳しくしたようなものが作成されるのでしょうか。それはそれでいいとして、これを職務等級にクラス分けしていくことは、まあ労使ですり合わせながらやっていくのでしょうが、かなり大変な作業になりそうです。さらに労組が「適切にメンテナンスできる職務記述書」と言っているように業務分担変更(タスクの組み合わせの変更)は想定されているらしいので、だとするとその都度変更後のグレードが定まるような仕組みも必要になるわけです。でまあ普通に考えて業務分担変更したら職務等級が下がって賃金も下がりましたというのはやられた方はたまらんわけで本当にやるんですかこれ。しかも組合員レベルとなると今現在は稀少な技術でも数年後には珍しくなくなってくる可能性もあってそれも「適切にメンテナンス」しなければならない。結局のところ、まだしも幹部ポストであればまあ重要性とか難易度とかいったものはそれなりにランク付け・グレード分けしやすいでしょうし、万一職務等級が下がって賃金が下がってもそれなりに高いレベルの処遇にはどどまるわけで、だから日立さんに限らず他のの企業でも管理職対象というのが多くなっているのでしょう。
 もちろん人事異動も業務分担変更もやりませんという制度変更を断行するというのであれば(まあそのほうが普通のジョブ型だ)そういう心配もないでしょうが、しかしこれまでの人事管理との継続性は労組としては当然主張するはずですし、結局のところ人事異動や業務分担変更を企業の都合で柔軟にやりたいのであれば、その分賃金の安定性を確保しなければならないといういつもの話ですね。
 あとはまあ初任配属だけは約束する「ジョブ型採用」(≠ジョブ型雇用)というのは考えられているのかもしれません。これについては今年の経労委報告で提唱されている(これまた独自定義の)「ジョブ型」(これについては以前のエントリhttps://roumuya.hatenablog.com/entry/2020/01/28/164053で書いたので繰り返しません)に通じるものなので現実的な施策だろうと思います(というかすでに現状が先行していて経団連が追認している感もあり)。
 ということで組合員レベルに関しては職能資格制度を職務等級制度にして職務の空き具合に応じて昇等級させるという感じになるのではないかと思われ、あれだなそれほど大きく変わるという感じはしませんが年功的ではないぞというメッセージとしては意味があるのかな。まあ職務が高度化していることを反映して昇等級(特に若手抜擢)が増えて賃金水準も上がるということになればご同慶ですが、いずれにしても労組がいうとおり「拙速に進めると色々な問題が出てくる」でしょうから4年間かけて漸進的に進めようという姿勢は適切なのではないかと思います。なにをやってもいいけどゆっくりやれという、まあこれもいつもの話ですね。それやこれやでタイトルにあるように「ジョブ型への道のりは遠い?」ということだろうと思います。欧米型のジョブ型になるには、仮になるとしてもはるかに遠い道のりがあろうとも思う。
 なお乏しい情報をもとに推測に推測を重ねていますのでなにかと的外れや読み違いがあろうかと思いますので関係者の方は怒ってもいいです(笑)。というかご叱責とともにぜひとも全体像をご教示いただきたいというのは本音なので、なにとぞぜひともそのようにお願いいたします。

末啓一郎『テレワーク導入の法的アプローチ』大久保幸夫『マネジメントスキル実践講座』

(3月4日追記)『マネジメントスキル実践講座』著者の大久保幸夫先生からもご恵投いただきました。ありがとうございます。

 (一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、経団連出版の最新刊、末啓一郎『テレワーク導入の法的アプローチ-トラブル回避の留意点と労務管理のポイント』と、大久保幸夫『マネジメントスキル実践講座-部下を育て、業績を高める』の2冊をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 テレワークについては東京五輪に加えて昨今の感染症対策としても注目が集まっており、情報通信技術の進歩もあいまって、法的な課題は積み残されたままで実態としてなし崩しに拡大が進んでいるのが実態といえましょう。そうした中で、本書は経営法曹の末先生がさまざまな法的論点を整理し、紛争を招かないようなテレワークの制度や運用についてまとめています。今後どのような法的整備が進むのかは読みにくいわけですが、本書では労働弁護団の見解をひいて課題を指摘しているのが(経営法曹の本の中で)目をひきます。
  こちらは新任マネージャーのための解説書という趣きで、読みやすくわかりやすい記述が心がけられており、初任者の教材としてはたいへん良好なも
ののように思われます。もちろん現実は教科書どおりにはいかないわけですが、そこは組織や職場の状況に応じてそれぞれに苦心して対応するしかないわけです。そういう意味ではややないものねだり的にはなりますが、マネージャーの役割としての「部下のキャリア管理」についてあまり言及がないのがやや残念に感じられました。

佐藤博樹『ダイバーシティ経営と人材マネジメント』

 佐藤博樹先生から、最新の編著書『ダイバーシティ経営と人材マネジメント-生協にみるワーク・ライフ・バランスと理念の共有』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 まだざっと目を通しただけなのですが、民間の営利企業に勤務している私としては副題の後段、「理念の共有」にやはり興味を惹かれるわけで、これを分析した島貫先生と小野先生の論文は特に関心を持って読ませていただきました。両先生の分析では理念の浸透や入職動機としての理念が定着につながっているとの結果ですが、平田先生のインタビューでは明示的には示されなかったとのことで、このあたりアンケートとインタビューの違いでしょうか(パート対象のインタビューだとネガティブな要素を拾いやすいような気がしなくもない)。調査対象になった三つの生協は、それぞれアンケート回収数が千数百という規模なので、民間企業であれば大企業ということになり、それなりに営利企業に近いマネジメントが行われているのではないかと思うのですが(実際ワーク・ライフ・バランスの面では営利企業と大きく異なる印象はない)、理念の存在感もあるようです。楽しみに勉強させていただきたいと思います。

ビジネスガイド3月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』3月号(通巻883号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

ビジネスガイド 2020年 03 月号 [雑誌]

ビジネスガイド 2020年 03 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本法令
  • 発売日: 2020/02/10
  • メディア: 雑誌
 今号の特集は「パワハラ指針&炎上対策」ということで、指針が出ましたのでグッドタイミングなのはもちろんのこと、各社とも炎上対策にはご関心が強いのだなあと感じます。秘密録音の証拠能力とか、参考になるのではないかと思います。
 また特筆すべきは八代尚宏先生の新しい連載「経済学で考える人事労務社会保険」がスタートしたことで、初回は年功賃金の合理性を経済学の観点から解説したうえで、前提となっていた環境が大きく変化したことでその変革が求められていることがわかりやすく解説されています。日本企業の「後払い賃金」はこれまでは基本的に個人勘定として理解されてきた(パナソニックの「退職金前払い制度」などの実務もそうですね)わけですが、まあ経済学的には賦課方式として考えることもできるかもしれませんし、2000年前後の一連の成果主義騒ぎもそうした解釈が可能かもしれません。
 なお大内伸哉先生のロングランの連載ではつい先日のジャパンビジネスラボ事件の高裁判決も取り上げられています。これも一部録音がからむ事件ですね。

労働市場の分極化

 ツイッターで反応してみたのですが140文字連投ではやはり限界があったのでこちらで考えてみたいと思います。先週金曜日(7日)に開催された第35回未来投資会議の資料が官邸のウェブサイトで公開されているのですが、その中にこんな一節があります。

6.大学教育と産業界、社会人の創造性育成のあり方

 第4次産業革命労働市場の構造に著しい影響を与える。その構造変化の代表が「分極化」。米国では、中スキルの製造・販売・事務といった職が減り、低賃金の介護・清掃・対個人サービス、高賃金の技術・専門職が増えている。日本でも同様の分極化が発生し始めている。
 逆に、第4次産業革命が進むと、創造性、感性、デザイン性、企画力といった機械やAIでは代替できない人間の能力が付加価値を生み出す。労働市場の分極化に対応し、付加価値の高い雇用を拡大するため、以下の政策のあり方を検討。
(1) 新卒一括採用の見直し・通年採用の拡大に併せて、Society5.0時代の大学・大学院教育と産業界のあり方
(2) 労働市場の分極化を踏まえた、社会人の創造性育成に向けたリカレント教育のあり方
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai35/siryou1.pdf

 この「労働市場の分極化」というのは正直初めて見ました。もちろん政治の世界では「米国政治の分極化」とか普通に使われる言葉ではあり、「社会階層の分極化」なども見たことがあるような気もするのですが、「労働市場の分極化」となるとインターネット上をざっと検索したくらいではほとんど引っかかってきませんので、まあまあ未来投資会議のオリジナルと言えるのではないでしょうか。そうか自ら率先して創造性、感性、デザイン性、企画力といった能力を発揮して国民に範を垂れたかこらこらこら、しかしなんか言葉が浮わついていて今一つ意味がわかりません。
 まあ一応定義らしきものは与えられていて「米国では、中スキルの製造・販売・事務といった職が減り、低賃金の介護・清掃・対個人サービス、高賃金の技術・専門職が増えている。日本でも同様の分極化が発生し始めている」というのですが、少なくとも米国で「中スキルの製造」の職が減っているのは製造拠点の国外移転が主因だということにはまあ異論はないはずで第4次産業革命とは関係ない。そのほかにも、米国の労働市場の変化については、たとえば移民労働力の流入なども影響しているものと思われます。というか、第4次産業革命自体が「さあこれから大いにやるぞ」と各方面が張り切っているこれからの話であって、今の米国の現状を「第4次産業革命労働市場の構造に著しい影響を与える。その構造変化の代表」ということはそもそもできないのではないでしょうか。
 もちろん日本の労働市場でも主として正規/非正規の二極化が進んでいるということはまあ大方のコンセンサスでしょうが、やはりそれが第4次産業革命の著しい影響であるという意見はほとんど聞かないわけですね。
 いやいやそれはそれとして今後第4次産業革命が進めばそうなるのだという話なのかもしれませんが、しかし「労働市場の分極化に対応」「労働市場の分極化を踏まえた」などと無批判に所与の前提にしているのは問題だろうと思います。「創造性、感性、デザイン性、企画力といった機械やAIでは代替できない人間の能力が付加価値を生み出す」と書かれていて、まあたしかに世間にはそういうことを言う人もいるわけですが、しかし「機械やAIでは代替できない」ものとしてボリュームがあるのはいわゆる「調整(スケジュール調整とかじゃなくて、利害の調整とかそういうのだな。法人営業とかやっていれば日常的にある仕事)」業務や対人サービスなどであって、こちらの価格を上げることで付加価値を増大させるという成長戦略を考えてほうが賢明なのではないかと、思わなくもない。もちろん創造性、感性、デザイ(ryはそれはそれでとても大事でしょうが、しかし調整業務や対人サービスも相当に創造性や感性が求められるわけであってな…?
 そして「労働市場の分極化に対応し、付加価値の高い雇用を拡大するため」に「新卒一括採用の見直し・通年採用の拡大」をやれと言っているわけですね。まあ新卒一括採用の見直しも通年採用の拡大も現実にはすでに政策論を先取りして進み始めているわけで、それ自体は採用や処遇の多様化であり選択肢の増加でもあるので基本的に好ましいことだろうと思います。実際これはわが国で現実に起きている二極化に対する対策という面が相当にあって、それこそ二極化の中間形態として「スローキャリアでジョブ型の限定正社員」みたいな提案がまじめに議論されているわけですね(例の朝日の「妖精さん」特集で掲載されたhamachan先生のインタビューとか)。先日ご紹介した2020年版経労委報告でも経団連は(経団連会長はどうか知らないが)引き続きメンバーシップ型を主流としつつ、かつての「自社型雇用ポートフォリオ」の「高度専門能力活用型」のようなジョブ型雇用を各社が適切に組み合わせるという方向性を明確に打ち出しているわけです。二極化に対する問題意識はかなり広く共有されていて、それをいかに食い止めるかという議論をしているわけで、ここで「分極化に対応」と白旗をあげる必要もないじゃないかと。
 でまああとは「Society5.0時代の大学・大学院教育と産業界のあり方」「社会人の創造性育成に向けたリカレント教育のあり方」と来るわけですが、リカレント教育については私も当事者なのでうーんとは思う。創造性育成ねえ…。まあ仕事からは得られないような知識や経験は提供していると自負しているので、あとはそれぞれに創造性につなげていただければ幸いですということで現時点ではご容赦いただければと。
 なおこの資料、ここ以外にも労働の話がたくさん出てきていて要するに兼業・副業とフリーランスなんですが、ざっとした感想としてはいかに「成長戦略」だとは言っても能天気すぎねえかという印象です。いい側面ばかりが強調されているわけですが、たとえば兼業・副業についていえば、自由にやっていいよという話になれば「新たな技術の開発、オープン・イノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効」なのはむしろ少数派であって多数派は追加的な収入が目的になるだろうと思いますし(まあ明白だと思うのですが違うのかな)、フリーランスについても「ギグエコノミーの拡大により高齢者の雇用拡大に貢献しており、健康寿命を延ばす」とか言うわけですが現実をみればまあ不安定で低収入なものが大半だろうと思われるわけで、つい先週もウーバーイーツ(だったかな?)の事例が国会で取り上げられて首相から「そのような実態はよろしくない」みたいな回答を引き出していたはずです。まあこちらは保護の在り方も視界には入っているようですが。