ビジネスガイド6月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』6月号(通巻946号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「改正雇用保険法と実務」「無期転換前後の実務対応」の2本です。雇用保険法の改正は短時間労働者への適用拡大がメインですがこれは施行はかなり先になります。まあ実務的な影響は大きいので早期に準備する必要があるということでしょうか(まあそのために施行を遅らせているわけだが)。リスキリングすれば待期期間がなくなるというのは来年施行だったと思いますがこちらは企業実務の対応はたぶんない、はず(違うかな)。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保障」は今回は先般の「こども未来戦略」が取り上げられ、共働き世帯が増加・一般化しているにもかかわらず共働きに不利な制度や慣行が多々放置されていることを指摘して「本来の少子化対策とはいえません」と厳しい評価を下しておられます。さらに財源のあり方についても問題点を指摘したうえで、保育政策の在り方についても持論を述べておられます。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は「中立保持義務」が取り上げられています。結論としては少数労組に対しても丁寧な説明が必要とのことで現行制度下においてはそのとおりなのですが、私としては(大内先生も書いてはおられないものの同様ではないかと推測)わが国では少数労組の権利が強すぎるという感想は従来から持っており、大内先生がコラムで紹介されている排他的交渉代表制(確かにご指摘のような技術的課題はありますが)、唯一交渉団体約款を真剣に検討すべきではないかと前々から思っている(
連合総研「イニシアチブ2009研究委員会」ディスカッションペーパー(1 - 労務屋ブログ(旧「吐息の日々」))ところです。
 なお特集以外の記事も悩ましいものが多く、いや本当にいまの人事担当者は大変ですね…。

滝原啓允『欧米のハラスメント法制度』

 大東文化大の滝原啓允先生から、『欧米のハラスメント法制度』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 滝原先生がJILPT時代にまとめられた「労働政策研究報告書No.216 諸外国におけるハラスメントに係る法制」を基にした本で、イギリス・アメリカ・ドイツ・フランス・EUのハラスメント関連法制が紹介されています。EUについてはわれらがhamachan先生こと濱口桂一郎先生が登場されていますね。
 終章ではこれら諸国(除EU)の法制の横断的比較と我が国法制への示唆がまとめられ、最後に修復的正義(restorative justice)に関する解説と労働法との接点についての補章が置かれています。
 修復的正義(司法)については私の認識は教育関係者が学校のいじめ問題との関連で取り組んでいるものという程度にとどまっており、まあ少年なので応報的司法との相性はあまりよくなかろうからオルタナティブとしてはあるのでしょうがそうそう上手くいくとも思えないなと懐疑的に感じていたわけですが、なるほどハラスメントも職場におけるいじめという側面はあるわけで、応用可能性はあるのかもしれません。勉強してみたいと思います。
www.jil.go.jp

ビジネスガイド5月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』5月号(通巻945号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「パワハラ対応事案」「令和5年度重要労働裁判例」「賃上げ促進税制の活用ポイント」の3本となっています。重要裁判例は例年同様千葉大の皆川宏之先生が担当され、経産省事件やアメックス事件などの注目事件も含めコンパクトに解説されています。八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は今回は「賃金上昇の要件」が取り上げられ、助成金や税制による政策の限界と、生産性向上につながる制度改革の必要性が指摘されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は、本年の労基則改正を受けて「労働条件明示義務」が取り上げられて広範に解説されています。

菅野和夫・山川隆一『労働法第13版』

 菅野和夫先生・山川隆一先生から、『労働法第13版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 菅野先生が東大法学部長を務められた時期の第6版以降、お弟子さんである山川先生と、やはりお弟子さんの同大の土田道夫先生が改訂を補佐されていたことは各版のはしがきに記されていますが、今回から山川先生との共著ということになったようです。
 この間の労働法の複雑化を反映して、第12版で1,200頁を上回ったぺージ数が第13版には1,500頁に迫る内容の充実ぶりです。構成的には、非正規労働者関係が節から章に格上げされ、個別的労働関係の最後に回っているのが目をひきます。引き続き座右に置いて参照させていただきたいと思います。

あえて非正規

 週末の日経新聞に掲載された「「あえて非正規」若者で拡大 処遇など新たな設計必要」という記事が一部で話題になっているようで、若干気になるところもありましたので書いてみたいと思います。いわく。

 非正規の働き方をあえて選ぶ人が増えている。25~34歳のうち、都合の良い時間に働きたいとして非正規になった人は2023年に73万人と、10年前より14万人増えた。「正規の職がない」ことを理由にした非正規は半減した。正社員にこだわらない働き方にあった処遇や、社会保障の制度設計が必要になっている。

 総務省労働力調査非正規社員の数と、その理由をまとめている。
 23年の調査で非正規として働く25~34歳は237万人で、13年に比べ64万人減った。このうち「正社員の仕事がない」と答えたのは30万人と、54万人減少した。非正規で働く理由を回答した人の比率では23年に13.1%と、半分以下になった。
 一方、理由として増えたのが「自分の都合の良い時間に働きたい」との回答だ。23年で31.9%と、13年と比べて10.6ポイント上がった。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA213A20R20C24A2000000/ 、以下同じ

 同じ調査によると25~34歳の雇者数は1,068万人とのことですので、非正規雇用労働者比率は22.2%となります。さすがに全年齢に較べるとかなり低いですね。比較対象にされている2013年は雇用者が1,117万人、非正規雇用労働者は237+64=301万人で同比率は26.9%なので、かなり低下していることが見てとれます。この数字で計算すると非正規に占める不本意非正規比率も(54+30)/301≒27.9%から30/237≒12.7%と低下しており大いに改善していると申し上げられるでしょう。記事中にもこのグラフが掲載されていますが、なんか数字が違ってるような気もしますがまあ気にしない(笑)。このあたりまではたいへん良好な方向といえましょう。
 それに対して「自分の都合の良い時間に働きたい」が増えていることはどう見たらいいのでしょうか。もちろん、選択可能な働き方が広がることそれ自体は結構なことではあるのですが…。

 都内で働く25歳のある女性は大手IT(情報技術)企業の正社員から、非正規社員として音楽業界に転職した。「多少給料が減って安定しなくても、やりたいことを追求したい」

 東大大学院の山口慎太郎教授は「プライベートを充実させたい人も増えた。仕事への価値観が変化している」と話す。
 都内の飲食店でアルバイトをしている25歳の女性は、所属する事務所での芸能活動と両立させるため非正規で働いている。「芸能の仕事の忙しさに合わせて、働く時間を調整できる」と語る。

 これは非常に既視感のある話です。バブル景気はなやかなりし当時に拡大したフリーアルバイター、その後省略されてフリーターと言われるようになりましたが、その当初の典型が「プライベートを充実させたい」働き方であり、正社員として伝統的な企業組織に組み込まれて拘束度の強い働き方をするのではなく、比較的高給のアルバイトなどで自由度高く働いてプライベートを重視するのが、当時は「格好いい働き方」とされていたわけです。実際、バブル下の人手不足でアルバイトの時給も上がり(いまウラ取りはしていませんが都心のファストフードなどでは時給2,000円でもアルバイトが集まらないとかいう話もあったと記憶)、典型的には半年間は待遇のいい仕事を求めて掛け持ちして長時間働いてしっかりおカネを稼ぎ、残る半年は失業給付を受けながら(当時の)生活費が安かった海外でバックパックをする、といった働き方/生き方が「格好いい」とされたわけです。これは当時(今もですが)「モラトリアム型」として分類されました。これに対して、記事にある「所属する事務所での芸能活動と両立」のような働き方は「夢追い型」と呼ばれています。
 さて周知のとおりバブル崩壊とその後の労働市場の急速な悪化によって、フリーターは一転して社会問題となり、支援の必要性が訴えられるようになりました。その支援の一環として紹介予定派遣のような制度が導入されたり、正社員として雇用されやすいような能力開発支援などが行われるようになり、そうした働き方は「ステップアップ型」と言われています。記事にある「音楽業界に転職した」という方は、まあこれと夢追い型の折衷のような類型でしょうか。そしてもう一つの類型として追加されたのが「やむを得ず型」であり、記事にある「正社員の仕事がない」フリーター、不本意非正規だったわけです。
 さて近年若年の不本意非正規が減少していることはたいへん好ましいことであるわけですが、なぜ不本意非正規が問題なのかということを思い返すと、記事がいうように「あえて非正規」が増えるのがいいことばかりかどうかはわかりません。
 もちろん記事も「正社員にこだわらない働き方にあった処遇や、社会保障の制度設計が必要になっている。」との問題意識は提示しているのですが、最も重要な「キャリア」の観点が抜け落ちているのはかなり残念と言わざるを得ません。不本意非正規の最大の問題点は、正社員のような社内育成・社内昇進の人事管理に乗らないので、スキルが伸びにくい結果として賃金などの待遇も伸びにくい、という点にあったわけですね。でまあこれは他の類型にも通じる課題であり、「ステップアップ型」はそれなりにスキルアップしていくことが想定されている(実際、製造派遣の人材ビジネスでは「派遣先での正社員登用」を目標に掲げる企業が少なくない)わけですが、「音楽業界」といわれると少々首を傾げなくもない。「夢追い型」も、夢のほうでそれなりの達成をみることができるという保証はないわけですね。したがって、雇用失業情勢が改善して非正規でやりたい仕事をやったり夢を追うのと両立できるようになってよかったですね、あとは処遇と社会保障ですね、で済むかどうかというとそうでもねえなと思うわけです。
 記事の後段では全世代に射程を広げて「育児や介護のために非正規を選ぶ人」の問題を取り上げていますが、こちらもキャリアの面で同様の課題を抱えていることは言うまでもありません。もちろん、全世代となると配偶者との家庭内分業を踏まえたキャリアを考える必要がありますので、総体的に社会保障の在り方などの問題が大きくなるわけではありますが。
 逆に言うと、この先「専門的な技能等を生かせる」ことが中心的な関心事で、それをさらに伸ばすということの重要性が相対的に低い(年金が支給されるため生計費も確保しやすい)高年齢者については、非正規で専門的な技能を生かして時間的自由度高く働くことはたいへん望ましい働き方といえるでしょう。能力の伸びる仕事は将来の可能性の大きい若い人に配分したほうがいいとも思いますし。
 ということで、ちょっと「キャリア」の観点が薄すぎないか、と思ったので書いてみました。まあねえ。

日本労働研究雑誌2・3月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』2・3月号(通巻764号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 例年通り2・3月は合併号で「学会展望」が掲載されており、今年は労働経済学の順番のようです。特集は「モノを運ぶ仕事の労働問題」で、いよいよ「2024年問題」のその年を迎える中非常にタイムリーなものです。掲載論文5本のうち4本が特集タイトルどおりに「モノ」を運ぶトラック労働者に焦点をあてたものとなっています。勉強させていただきます。

第一生命編著『ビジネスおたすけノート第19版』/吉田寿『入社1年目の仕事学』

 (一社)経団連事業サービスの大下正さんから、経団連出版の最新刊、第一生命編著『ビジネスおたすけノート』と、吉田寿『入社1年目の仕事学』の2冊をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 第一生命のものは1991年の初版以来改訂を重ねて今回が第19版とのことです。いずれもビジネスパーソン初心者向けの仕事入門といった趣の本で、新年度を控えたタイミングでの刊行ということのようです。