日本労働研究雑誌11月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌11月号(通巻712号)をお送りいただきました。ありがとうございます。

 今月のメインは例年のディアローグ「労働判例この1年の争点」で、昨年・一昨年に続いて野田進先生と奥田香子先生の対談です。ホットイシューはセブン-イレブン・ジャパン事件(中労委命令)とベルコ事件で、いずれも典型的な雇用関係ではない就労形態における「労使関係」をめぐるものです。前者については都道府県労委レベルでは団交応諾を命じる判断が示されて注目されていましたが、中労委はそれを否定しました。後者は周知のとおり連合が全面的な支援体制をとっているもので、北海道労委は不当労働行為として救済命令を出していますが、雇用関係をめぐる訴訟では北海道地裁は原告とベルコとの黙示の労働契約の成立を否定しました。
 それぞれの事件について両先生ともに相当にもやもやしたものをお持ちのようで、特に野田先生は「判例や命令での個別の各要素に対する判断というのは、まあ、率直に言って結論ありきのような気が」すると、たしかにまことに率直に述べられているわけですが、まあしかしソクハイ事件のバイク便ライダーと、仕入れもすれば採用もするコンビニオーナーが同じでいいかというとそうも思えないわけで、私は今回の決定はまあ妥当だろうと思います。INAXメンテナンス事件のように、同じ事件の中でも一方に数十人の従業員を抱える水道工事業者もいれば全面的にINAXに依存している個人事業主もいるといった多様性があるケースもあり、労組法でやるとなればそれぞれの事件に応じて個別に判断するよりないのだろうなと思うわけです。でまあ労働法の枠内でやるよりは立法論として整理したほうがいいだろうというのは以前から書いているとおりです。
 ベルコについては、今回原告が新しい論点として設定した「商業使用人構成」が注目されたわけですが、これにについては野田先生は「起死回生を狙ったとはいえ、奇策といわれてもしようがない」と批判的です。連合はベルコに対して「業務委託契約を濫用し、雇用責任を代理店に押し付け、本社はあらゆる労働関係法規を逃れるしくみをとっている」と批判しており、まあ私もこのやり方がいいとは決して思いませんが、しかしベルコと直接の黙示の労働契約が成立しているというのは現行法では無理があると思いますし、そこで商業使用人構成をひねり出したという感じではないでしょうか。この事件は事業承継にともなって原告2人の雇用が承継されなかったというケースなので、新たに事業を承継した代理人との労働契約の存在を争えば認められた=勝てたのではないかと思うのですが、まあそれではベルコのやり方を否定したい原告としては意味がなかったのでしょうが。あまり愉快ではありませんがベルコのやり口は現行法を前提に周到に設計されているように思われ、たとえば偽装請負とかいった攻め手でも攻略は簡単ではなさそうで、これまた野田先生も明確に指摘されているとおり「正直に言うと、あるべきなのは1つは立法論」ということにならざるを得ないのではないでしょうか。連合は「労働や指揮命令の実態は通常の会社組織と何ら変わらず、いわば「会社組織の丸ごと偽装」ともいえる脱法的な働かせ方」だと主張していますが、ではこうした形態を採用するのであれば労働や指揮命令の実態がどのようなものでなければならないかを明確化する、といったものですね。労組法上の使用者性については道労委は認定しているわけで、それもあわせてこういうやり口が経営的に「使えない」ものにできるのではないかと思うわけです。技術論としては難しい課題もあるのかもしれませんが…。
 なお特集は「ハラスメント」で、ディアローグに紙幅を喰われて分量は少なめですが、パワハラ防止が義務化され、指針の検討も進む中でタイムリーな企画と申せましょう。各国法制の現状を整理した山崎先生の論文は勉強になりますし、特に加害者の更生について実践をふまえて論じた中村正先生の論文は非常に興味深いものでした。