今年の10冊

本年も年の瀬となりました、ということで毎年恒例のこれを。例によって著者名50音順で、紹介順に意味はありません。

NHKEテレ「オイコノミア」制作班・又吉直樹編『オイコノミア−ぼくらの希望の経済学』

オイコノミア ぼくらの希望の経済学

オイコノミア ぼくらの希望の経済学

申し上げるまでもなく、一部で大好評を博したEテレのシリーズの書籍版です。毎回たいへん面白く拝見させていただきましたので、テレビ番組と合わせ技ということで。

大内伸哉『雇用改革の真実』

大内先生は今年もまた精力的に出版されました(これでもペースダウンした?)。個別の論点はともかく(「真実」かどうかはともかく)、人事管理や労働市場の現状をふまえた現時点での労働法制の論点整理としてよくまとまっていると思います。

大屋雄裕『自由か、さもなくば幸福か?−21世紀の<あり得べき社会>を問う』

おそるおそる手を出してみたのですが非常に読みやすく面白い本でした。自由と幸福の関係は労働問題においても非常に重要な論点なので、たいへん勉強になり、また頭の整理ができました。

川喜多喬『組織改革論集・労働組合編』

組織改革論集 労働組合編

組織改革論集 労働組合編

今読んでも、いまだ色あせない川喜多先生の論集です。当時を知る人も知らない人も、多くの労使関係者に広く読まれてほしいと思います。

神取道宏『ミクロ経済学の力』

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

今をさること30数年前、私もこの科目を受講しました。当時の教官は根岸隆先生、教科書は今井賢一宇沢弘文小宮隆太郎根岸隆村上泰亮『価格理論』、岩波のハードカバー・函入り全3巻でした(たしかIIIは使わなかったと記憶)。もちろん定評ある素晴らしいテキストですが、しかし難儀したことを記憶しています。今回このテキストを非常に楽しく一気読みできた私は少しは成長したのでしょうか。いやいやこのテキストと神取先生の力でしょう。

齊藤誠『父が息子に語るマクロ経済学

父が息子に語るマクロ経済学

父が息子に語るマクロ経済学

これも非常に面白く一気読みしました。ビジネスパーソンにまことに好適な参考書です。算式を息子にやらせているところが妙味で、現実のデータや実例をふんだんに織り込んで「経済学の力」を示しているところは神取先生の本と同じです。金利と成長率の関係の部分で父親が妙に厳しくなるところでは思わずニヤリとしてしまいました。

佐藤博樹・大木栄一編『人材サービス産業の新しい役割』

人材サービス産業の新しい役割 -- 就業機会とキャリアの質向上のために

人材サービス産業の新しい役割 -- 就業機会とキャリアの質向上のために

佐藤博樹先生が長年にわたって取り組まれてきた人材サービス研究のまとめで、2010年の『実証研究 日本の人材ビジネス』に続くものという位置づけです。この業界の現実を知り、冷静に理解するために必須の本と思います。

原ひろみ『職業能力開発の経済分析』

職業能力開発の経済分析

職業能力開発の経済分析

これまた原先生がJIL時代から長年にわたって取り組まれてきた職業能力開発研究の総まとめという感じの本です。まあ計量分析は私にはほとんど評価できないのですが、職業能力開発、とくになかなかつかまえどころの難しいOJTについてもしつこく取り組まれて、実務実感にも一致するところの多い豊かな成果をあげられているのではないかと思います。これが「ミクロ経済学の力」というものなのでしょうか、ひょっとしたら。

デクラン・ヒル『あなたの見ている多くの試合に台本が存在する』

あなたの見ている多くの試合に台本が存在する

あなたの見ている多くの試合に台本が存在する

スポーツ関連の読書量が増えているここ10年ですが、今年は1冊あげたいと思います。キャッチーな書名と手軽なソフトカバーの装丁にもかかわらず、中身はかなり重厚な研究書です。サッカーの八百長試合のデータベースという貴重な資料の分析をもとに、八百長をなくすための提言をしています。ちょうど日本代表監督をめぐる疑惑が取りざたされている中でタイミング良すぎかも(笑)。

エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事・1』

軽めの本もひとつ。ホックの怪盗ニックシリーズは、早川書房からポケミスやミステリ文庫で邦訳が紹介されてきましたが、2003〜2004年にミステリ文庫で4巻発刊されたのを最後に止まっていました。今回はシリーズ全作を発表順に邦訳出版するという、掛け値なしの快挙です。涙を流しているファンは多いものと思います。

ということで、労働から足を洗ったかいがあり?めでたく??今年は労働の本が半数以下となりました。ただまあどうなんでしょうか、おそらく私の労働関連の読書量が減っているせいだろうとは思うのですが、しかし今年は労働分野の収穫が例年ほどではなかったのではなかろうか?…などと思わなくもありません。正直、日経経済図書文化賞受賞作も苦労しながら読んでみたのですが(例によって私にはアカデミックな評価はできないのではありますが)どうもピンと来ないというか、しっくり来ないというか…川喜多先生ならどう言われたかな…とか…。
とまあ最後は無意味な戯言ではあります。みなさま、良いお年をお迎えください。