菅野和夫『労働法第十版』

菅野和夫先生から、ご著書『労働法第十版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

労働法 第10版 (法律学講座双書)

労働法 第10版 (法律学講座双書)

ついに二桁の第10版となる改訂を重ね、ますますボリュームも充実しています。改訂の回数と分量の増加は、我が国労働法の発展と進化、そして複雑化と課題の大きさを如実に示しているように思われます。オビにも「労働法の姿を体系化した基本書の決定版」とありますが、一部では「行政解釈より影響力のある菅野説」とのウワサもちらほらするくらいで、大げさかもしれませんが我が国労働法の「不磨の大典」と申せましょう。
基本的には前版以降の労働法改正をフォローしたということですが、2年半ぶりの新版というのが、法改正の動きが速いとみるのか停滞したとみるのかは微妙な感じです。まあ混乱していたとはいえると思いますが(笑)
この版で特に目をひくのは非正規労働者の節(第3編第3章第3節)の冒頭(第1款)に「非正規労働者問題・総説」が加えられたところだろうと思います。核心部分を備忘的に転載しておきます。

非正規労働者の問題状況を大きく改善するには、根本的には、日本経済がデフレ経済を脱して、安定成長の軌道に復帰することが必要であって、経済・産業・財政・教育・労働政策などを総動員しての対策を必要とする。当面の労働政策としては、非正規労働者のための能力開発・就職支援策、労働市場のセイフティ・ネットの再整備、正規雇用者との雇用・処遇上の格差について濫用的な取扱いを抑制するルールの定立などが求められている。
 ただし、非正規労働者といっても、多くのパートタイム(短時間)労働者や高齢の嘱託雇用者など、当該非正規雇用を自己の就業形態として任意に選択している人々も多数存在するのであって、非正規雇用は、労働市場における人々の選択肢の幅を広くしている面があることを看過してはならない。また、非正規労働者の保護のための法規制を強化する場合には、労働市場における副作用や反作用の生じうることにも十分に注意する必要がある。
菅野和夫(2012)『労働法第10版』弘文堂(初版1985)、p210)

まことに現実をふまえて均衡のとれた見解と思います。「濫用的な取扱いを抑制するルールの定立」については、現行パート労働法以上の踏み込みは難しいように思いますが…。
「経済・産業・財政・教育・労働政策などを総動員しての対策を必要とする」には、ぜひ「金融」を具体的に加えてほしかったところですが、「など」に包括されていると解釈しましょう。