官邸メールマガジンの雇用対策(2)

ということで昨日の続きです。首相の雇用対策が語られます。

  ナレ:この2つのやり方が、どちらもそぐわなくなったのが、今の時代。
     では、どうすればいいのか。

総理:今考えないといけないのは、需要のあるところをしっかりとターゲッ
   トを当てて、そこに雇用を生み出し、そしてサービスを含む生産を生
   み出し、という第3の道が必要であると

  ナレ:需要のある所を狙って、政策で後押しする。それは例えば、こん
     な分野です。

総理:介護であれば、あるいは保育であれば、医療であれば、そういう介護
   をするという、役に立つサービスを生み出しているじゃないですか。
   喜びというか幸せというか、そういうものを感じることができるわけ
   なんですね。それ自体社会の1つのあり方としてもプラスだし、そこ
   に新しい介護という産業が大きくなることになるでしょう。そういう
   形が、まだまだ日本には沢山の分野あるということなんですね。

なるほど、ここに持ってきたいから「人間のつながりが非常に薄くなっている」というのが出てくるわけですか。
で、ここで唐突に首相がかつて特許事務所を開いていた経験が紹介されます。

  ナレ:しかし、雇用を増やすということは、企業側に、新たな人を雇う
     気持ちが生まれなければなりません。その難しさを、総理はリア
     ルに語ります。

総理:中小企業にとっては、募集するというのは、結構お金がかかるんです
   ね。それから、面接して、どの人がいいかというのは、なかなか、1
   回の面接じゃわからないじゃないですか。そうすると、非常にリスク
   があるんですね。

―――中小企業で1人雇うの大変だというのは、その昔、菅特許事務所でも
感じられました?

総理:そりゃ、そうですよ。

  ナレ:実は弁理士の資格を持つ総理は、若かりし頃、自分自身と事務員
     1人だけという「菅特許事務所」の零細経営者だったのです。そ
     んな体験も踏まえて語る、雇用対策から経済成長への方程式。

うわーこれ池田信夫先生みたいに解雇を自由化すれば雇用が増えるとかいう議論に進むのかなと思ったらそうでもなくて、話はいきなりまた介護に戻ります。

総理:介護士の仕事をする人、したいと思っている人はいるけども、給料が
   安いんで、なかなか定着しないんですよね。例えば、そういうところ
   に少し給料を上げるのに財政が手伝ったら、そこにはサービスという
   生産が生まれるじゃないですか。そうすると、失業率が下がると、賃
   金が上がりやすくなるんですね。そういう形ででも、デフレが解消す
   る道になると。それにもまして、GDPが引き上がることになる、つ
   まり、経済が成長することになる。同時に仕事をしてない人が仕事を
   して、給料をもらえば、税金を払うことになる。

  ナレ:この政策を理論的に裏付ける作業をしているのが、内閣府の経済
     社会総合研究所。経済学者の小野善康所長が、指揮を執ります。

総理:ちゃんとまとまればですね、予算の編成の、一つの考え方の大きな一
   つの基準にしたいなとこう思っているわけです。

  ナレ:今開かれている臨時国会の初日に、総理はこのチャレンジを明言
     しました。

総理:需要創造や雇用の創出を目指します!私がこの20年間先送りされて
   きた、こういう大きな問題を次の時代まで先送りしないでこの政権の
   下でやるんだということを有言実行でやるんだ、ということを言った
   のですが。

―――このブログでそういう事が繋がっていくといいですね。

総理:そうですね。是非、そういった経済のあり方、社会のあり方を伝えて
   いきたいですね。

小野説には賛否両論あるようですが、いずれにしても財政出動はするわけで、それを熊やイノシシしか歩かない道路に使うのではなくて、これからの成長産業として期待できそうな介護、保育*1、医療などに使ったほうがいいだろうという議論はありうるもののように思えます。それに加えて、こうした産業の成長は「人間のつながりが非常に薄くなっている」状況の改善にもなるのでますますよろしかろうという話になるわけですね。問題は思惑どおりの効果が得られるかどうかにあるわけですが。
で、「中小企業で1人雇うの大変だ」というのは、要するに介護労働者は給料が安いのが問題だ、しかし中小企業では「一人雇うの」も大変なくらいなのだから給料を上げるのも容易ではないだろう、であればその給料を上げるのに財政が手伝えば…という展開になっているわけですね。なんかわかりにくい理屈だなあ。
ただ、これまた過去書いたことの繰り返しになりますが、一時的に財政で支援して介護労働者の賃金水準を上げれば、将来的にもそれが維持できる、あるいはさらに上がるかといえばそういう状況ではないでしょう。主たる問題は不況や介護事業者の経営にあるのではなく(もちろんこれらも問題ではありますが)、利用者の支払能力にあることは明らかであるように思われます。要するに需要はたしかにあるけれどその大半は低価格のサービスに対する需要であって、その価格で供給するためには介護労働者の賃金が抑制されざるを得ないという構造が問題なのではないでしょうか。
ということで、やるのであれば介護保険制度自体を見直して、具体的には介護報酬を引き上げて介護事業者が労働者にそれなりの賃金を支払っても経営が成り立つようにすることが望ましいのではないでしょうか。それで利用料金が上がると利用が減る可能性はありますので、自己負担比率の引き下げも必要かもしれません。財政的には過剰利用が心配かもしれませんが、一方で当面は利用増によるスケールメリットも期待できそうです。
もちろん報酬引き上げ、利用増となればそのための巨額の財源が必要になるわけで、現実的には負担増になることは確実なので政権としてはなかなか踏み込みにくい領域だろう(支持率低下の現状では特に)とは思うのですが、しかし介護を本当に成長産業として育成していくためには避けて通ることはできないと思うのですがどんなものなのでしょうか。

*1:保育は長期的には少子化の中でどうなのかという議論はありそうですが、まあ現に供給不足ですし、当分は女性の社会進出拡大にともなって成長すると考えていいのでしょう。