堀田聰子「人材ビジネスの市場と経営」

これは寄附研究2年目から毎年行われ、今回が5回めという調査結果の報告です。定例の調査からは、ごく大雑把にいえば(かなり不正確です)、規模が大きく従業員一人あたりの操業度が高いほど業績も良好で付加価値も高いという順当な結果が導き出されています。事業戦略については、新規事業・地域・取引先の拡大も意識されているが、それ以上に現行の事業・取引先の維持を重視していること、コンプライアンスや個人情報保護がきわめて重視されていること、現行事業のほか、派遣事業者は職業紹介に、職業紹介事業者は派遣事業に関心が高いことなどが明らかにされています。
それ以上に面白いのが「派遣切り」に関するトピック調査です。過去1年間に派遣先から派遣契約を中途解約、いわゆる「派遣切り」を受けた派遣事業者は全体の65%にのぼっています。昨年末の調査ですので、ちょうどリーマン・ショック後に派遣切りが始まって以降の1年間とみていいのでしょう。65%を多いとみるか少ないとみるかは評価が分かれるところでしょうが…。
特に興味深いのは、「派遣切り」にあたって違約金がどの程度支払われたか、という調査結果です。1回も支払われなかったとする派遣会社が約4割にのぼる一方で、すべてについて違約金が支払われたという派遣会社も8%あり、80%以上で支払われたとする派遣会社もあわせると21%にのぼります(ちなみに、異常値が出がちな大手派遣会社は集計から除かれており、調査対象は従業員5人以下を約3分の1含む平均45.4人の185社とのことなので、この数字はまずまず中堅〜中小派遣会社の実情にそれなりに近いものとみていいと思われます)。違約金がどの程度「派遣切り」にあった派遣労働者に回っているのかが興味深いところですが、残念ながらそのデータはないようです。
それにしても、違約金回収にこれほど格差が出るというのも不思議といえば不思議です。そもそも派遣契約の中に違約金が織り込まれていたかどうかという契約手続きの違いだとすれば、これは事前にこうした「派遣切り」という事態をどこまで想定していたかということになるでしょう。あるいは、違約金をしっかり取り立てる能力のある派遣会社か、そうでない派遣会社かということで、経営力の違いが現れているのかもしれません。あるいは、違約金をきちんと支払うような良好な取引先ともっぱら取り引きしている派遣会社なのか、違約金も払わないような良好でない取引先ばかりの派遣会社なのか…といった違いがあるのかもしれません。いずれにしても、今後は今回の「派遣切り」を教訓に、まずは期間途中の解約が行われない、行われたとしてもしかるべく違約金が支払われてその一部が適切に派遣労働者にも行き渡るという方向に商慣行を改善していく必要があろうと思われます。