素人の素朴な疑問

もう一つ2月9日の日経新聞から。「経済教室」欄で経済学者の奥野正寛東京大学教授が「市場機能を利用した所得再分配策 給付で現金・現物併用を」という論考を寄せておられます。その一部を抜き書きしますと、

 例えば保育所の場合、ランクの異なる2つの認可基準を設けてはどうだろう。現在の認可外保育所は最低基準を満たした保育所として認可し、政府や自治体の補助で無料化する。他方、現行基準を維持するか、またはそれより高い基準を新たに創設し、同基準の保育所への補助はゼロにし、その代わりに自由な料金設定を認めてみよう。
 設備が劣り保育士が最低限の面倒しか見ない代わりに、補助金で無料化された最低基準の保育所には、ぜいたくは求めないが最低限の保育サービスを必要と考える低所得者層が集中するだろう。他方、余裕のある富裕層は、料金が高くても設備の整った、スペースもサービスも余裕のある保育所を選ぶだろう。結果として、自己選択によって高基準の保育所を選ぶ富裕層には国庫補助を与える必要がなくなり、明示的な所得制約をしなくても財政支出を抑えられる。逆に、低所得者に的を絞った低基準保育所には、多額の公的援助を与えられサービス拡大が可能になる。
(平成22年2月9日付日本経済新聞朝刊「経済教室」から)

教育関係者が読んだら二極化とか格差の固定とか騒ぎ出しそうな話のような気がしますが(そうでもないのか?)、まあこれは例え話で、単純化されたモデルのようなものなのでしょうから、そこをあれこれいうのは野暮というものなのかもしれません(と思うのですが、違うでしょうか)。
それはそれとして、これまた非常に素朴な疑問なのですが、無料保育所のサービス水準が国庫補助によって上がれば上がるほど、高所得者層の流入が増えることは避けられないように思います。となると、国庫補助を受ける人が増えることで財政支出が増大したり、無料保育所のキャパシティを上回る入所希望者が集まったりするような気がします。まあ、そうなったらなったで、財政の制約によってサービス水準が低下し、それによって高所得者流入も減少するというメカニズムが働くだろうということだろうとは思います。ただ、現実の運用にあたっては、現にキャパシティを超えた場合などにおいては、なんらかの「明示的な所得制約」が必要になってしまうのではないでしょうか?もちろん、所得制約によらずに、別の方法(たとえば抽籤とか)で入所者を決めでも同様のメカニズムは機能するでしょうが、この場合は無料保育所を必要としている低所得者の一部が排除されてしまうことになりますので、現実には社会的に困難なのではないかという気がします。まあ、これはたぶん国庫補助あり/なしという二段階で考えるからそうなってしまうのだろうという気がしますので、うまく多段階を設定する制度設計をすれば問題なくなるのかもしれませんが…。