優良児童劇巡回等事業の仕分けられぶり その2

さてきのうの続きということで、さっそく評価者コメントを個別にみていきたいと思いますがその前にもうひとつ。「優良児童劇巡回事業」というわけですが、本当に「優良」なんでしょうか?という疑問は持たなくてもいいのでしょうか?まあ、審議会で著名な委員の方々が審査した結果なので、十分信頼できるという判断なのかもしれません。それを言い出したら、それこそ有識者の方々による事業仕分けだってどんなもんなんだということになりかねませんし。
ということで個別にみていきますと、
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov16kekka/2-28.pdf

  • 総額は要求通り。ただし財団はリストラすべき。児童に優良な児童劇・映画等に触れる機会を作るのは重要だと思われる。ただし、天下りの方には退職していただくべきかと思う。また、管理費は大幅に圧縮すべき。

天下りの方には退職といいますが、説明資料をみると官庁OB役員報酬総額はゼロとなっていますが。まあ、報酬以外にもたいして使わないのに妙に立派な理事長室なんてのがきっとあるんでしょうし、役員報酬以外のコストがあれこれかかっているでしょうから、退職していただけばそれなりに費用は減るでしょうが。しかし、この天下り=ムダという短絡にはどうも違和感があるのですが。いやムダが多かろうとは思うのですよ。ただ、天下りというだけで何も考えずに即座にムダと断じているような印象を禁じえないわけでして…。

  • (2)児童厚生員等研修事業、(3)放課後子どもプラン指導者研修等事業は不要。劇巡回に絞って、その予算を文科省で実行。財団役員の給与は二人で平均1,300万円も必要なはずはない。

これも、「財団役員の給与は二人で平均1,300万円も必要なはずはない。」と言われればまあそうかなあと思うわけですが、しかし資料を見ていると常勤役員2人に対して役員報酬総額が14,617千円となっておりますが。2人でこれなら平均は730万円で、このお二方の経歴などを考えれば驚くほど高額とは言えないようにも思われます。いやたいして仕事もしていないのにこれかよというののであればそれはわからないでもないのですが、本当にたいした仕事をしていないのか、それともひょっとしたらそれなりの仕事をしているのではないか、そういう議論をしている気配もなく、ただ数字だけ見て意見を言っているような感もなきにしもあらずなわけでして。まあ、これは文面に出てこない議論がされているのかもしれませんが。

  • 役員の人件費は大幅に縮減していただきたい。その分を劇団にまわして欲しい。このような良心的な劇の提供は続けるべきと思う。劇団は儲かっていないはずなので安易な予算削減は慎むべき。このようなものを削るより先に公務員給与のカットを行うべき。

こういう寝言を抜かしているのはどこのどいつだ、おっと暴言失礼。しかし、行政の会議体で政策の是非を議論しているのにこういう感覚的な意見を開陳するというのもいかがなものかと思うのですがどうでしょう。仕分け人もたくさんいるので中にはこういう人もいるのかなぁ。まあ、これが「庶民感覚」だということなのか…。お役人はムダづかいしてるくせに給料はいっぱいなのに、子どもに劇を見せてあげるやさしい「良心的な」お兄さんお姉さんは貧乏、だからお役人の給料を減らしてお兄さんお姉さんにはもっとお金をいっぱい…って、対象は児童劇かもしれないが仕分けは童話じゃないんだからさ。いや本当に役所がムダ遣いしていて、児童劇団にはもっと助成があってしかるべきなのかもしれませんが(私にはわかりません)、それにしてもこういう議論では他人は説得できない、というかむしろ逆効果だと思うのですが、まあ余計なお世話だと言われそうですが…。というか、これで要求どおりになったんですからこれが結果的には効果的な作戦ということになるわけですが、しかしこれで本当に公務員の給料がカットされるとしたらお気の毒としか言いようが・・・・・orz

  • 劇は自治体で既に工夫し実施済みである。地方に財源を移し委ねるべき。研修は国家資格ではなく、地域で様々な特色のある研修を行っている。こちらも地方へ。財団の運営も見直すべき。収入の40%が補助。
  • まず、本事業は速やかに地方自治体へ任せる。次に?児童館自体の運営 ?学童への文化教育・支援を担当する省庁を一本化する。原則として、最終受益者、児童館(現場)により多くの資金が渡るようにすべき。制度設計を簡素化する。

地方に移管しろ、という意見も多いようで、そうすべきかどうかの判断はともかく(私には判断つきません)として、財源については財務省と仕分け人で少しニュアンスの違いがあるようです。仕分け人は財源も移すとの見解のようですが、財務省はきのう紹介したとおり「研修が必要なら地方のものを受ければよい。国はカネを出さない」というスタンスのようです。現実には児童館の大半は自治体が作ったものですし、児童厚生員なども地方公務員が太宗なので、研修も自治体でやれ、国はカネは出さないぞ、といわれると自治体も反論しにくいところかもしれませんが、カネが出ないだけでなく口も出されないのであればそれは歓迎、という自治体もあるかもしれませんが…。
それから、厚生労働省がやるのがいいのか、という議論もあります。

  • 事項要求ではなく、本予算に入れるべき。文化庁文科省の事業との違いを大切にし、一本化して実施すること。財団法人を関与させない。
  • 児童の保護に欠けるものや仕事と子育ての両立など、厚労省は最低水準の引き上げに集中すべき。優良コンテンツに触れるという部分や研修は、できるだけ一本化すべき。

前にも「劇巡回に絞って、その予算を文科省で実行。」という意見がありましたし、「学童への文化教育・支援を担当する省庁を一本化する」という意見も、まあ文科省がやれという意味でしょう。ここでも、「厚労省は最低水準の引き上げに集中すべき。優良コンテンツに触れるという部分や研修は、できるだけ一本化すべき。」というのも文科省がやれ(というか、厚労省はそんなことはしなくていい)という意味だと思われますので、どうも厚労省は旗色が悪いようです。役所的には、児童の健全育成は旧厚生省、文化振興は旧文部省・文化庁ということで、これらは別物だということなのでしょうが、まあ子どもに劇を見せるという結果は同じわけではありますので、目的は異なるにしても運営は一体でやって悪いというものでもないでしょう。いやちょっと待てよ、本当に結果は同じなのかな。財務省がそうだというからそうかなと思うわけですが、文化庁のサイトで「本物の舞台芸術体験事業」の中身をみてみると、こちらのほうがかなり幅広く多種多様で、かつ本格的な「舞台芸術」が多いようですが、いっぽうで優良児童劇巡回事業で公演しているような劇団もやっているようですので、まあ一部として取り込んでしまうことは可能かもしれません。
それはそれとして、「厚労省は最低水準の引き上げに集中すべき。」というのはどんなもんなんでしょうかね。
あとは、劇はいいけれど研修はダメだ、という意見も出されています。

  • 研修事業は取りやめにして2/3程度にする。
  • 財団法人の任意の資格制度への補助金は不適切。

ということで、これを見ている限りではあまり「予算要求通り」という感じがしない、というか実際に「評決」の結果をみると「廃止 1名 自治体/民間 3名 予算計上見送り 0名 予算要求縮減 6名 うち 予算半額 0名 1/3 縮減 2名 その他 4名 予算要求通り 2名」となっています。これがどうして予算要求通りになったかというと、「とりまとめコメント」にこうあります。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov16kekka/2-28.pdf

 大変難しい判断になるが、取りまとめ役の判断として、第2WGの結論は「予算要求通り」としたい。様々な意見があったが、「予算縮減」という意見の中でも、よく見てみると、「総額は要求通り。但し、財団についてはリストラすべき。」という意見や、「予算を大幅に劇団にまわして欲しい。」という意見、あるいは「天下りである1300万円の理事についてはリストラすべき。」、さらには「児童厚生員等研修事業や放課後子どもプラン指導者研修等事業については精査する必要がある」というような意見があった。つまり、子どもたちに直接、夢と希望を与えるような事業については基本的に大切にすべきということである。もちろん、文化庁文科省との重複がないように厚生労働省としてやる意義、即ち、子どもたちに良質な芸術や文化に触れさせると同時に、子どもたちの居場所を作ること、また子どもたちに参加の機会を与えるということがコンセプトであったと思うので、このコンセプトをしっかりと守った上で事業を続けていただきたい。特に、厳しい財政状況の中で劇団の方たちが苦労しているという現実があるので、皆さんが頑張っていただけるよう配慮を求めたいと思う。

まず、「天下りである1300万円の理事についてはリストラすべき。」という意見があったそうで、天下りである1300万円の理事がいるそうなんですが、これは誰なんですかこれは。少なくとも資料をみる限りでは、有給の理事は鈴木一光氏と興津哲哉氏のふたりで、役員報酬総額が14,617千円となっています。まあ、これはひょっとしたら鈴木氏か興津氏のどちらかが1,300万円で、もう一方が161万7千円なのかもしれません。興津氏は朝日生命の人のようなので、朝日生命が人件費をもっているとしたらこれはありうる話です。ただし、鈴木氏の経歴をみると「日本教育開発センター(児童指導員)、全国児童館連合会を経て現職」となっています(http://www.sut-tv.com/terakoya/kousi/suzuki_kazumitu/kousi.htm)。児童健全育成推進財団は、東邦生命がつぶれた際に(財)東邦生命社会福祉事業団を全国児童館連合会が合併してできた団体なのですから、鈴木氏はまさにこの財団の「プロパー」であって、およそ「天下り」とは思えません。もう一人の興津氏にしても、詳しい経歴はわかりませんが朝日生命の人であることは間違いなさそうなので、やはり「天下り」とはいえないでしょう(朝日生命グループの中ではあるいは「天下り」なのかもしれませんが)。ということは、「天下りである1300万円の理事についてはリストラすべき」と言われても、そもそもそんな人はいないのにどうやってリストラするんだという話で、本当にまじめに検討しているのか…という感じがしてならないのですがどうなのでしょうか。
結論の「予算要求通り」というのも、それが妥当かどうかは私にはよくわかりませんし特段の意見もありませんが、印象としては「なにか一つくらいは要求通りという判断もしなければいけないだろうし、だったら、『子どもの夢と希望』を大事にしようということであればそれほど反対されることもないだろう」といった政治的判断の結果であるように思われてなりません(まあ、それが悪いかといえば別の議論かもしれませんが)。とりわけこの事業については予算のかなりの部分は劇団に渡っているわけなので、「厳しい財政状況の中で劇団の方たちが苦労しているという現実があるので、皆さんが頑張っていただけるよう配慮」という意味では効率的ともいえるのでしょう。劇団を潤わせることが事業の目的ではないはずなんですけどね。まあ、手段ではあるのかもしれませんが。