優良児童劇巡回等事業の仕分けられぶり

先週に続いて「事業仕分け」ネタです(すみません)。厚生労働省の「優良児童劇巡回等事業」というのが今回初の「予算要求通り」となったということで、週末の報道番組などでも紹介されていましたので、さっそく見てみました。
まずは事業の説明資料はこちら。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov16-pm-shiryo/2-28.pdf
事業内容はこれを見ていただくとして、さっそく評価者コメントを見てみますと…
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov16kekka/2-28.pdf

  • 総額は要求通り。ただし財団はリストラすべき。児童に優良な児童劇・映画等に触れる機会を作るのは重要だと思われる。ただし、天下りの方には退職していただくべきかと思う。また、管理費は大幅に圧縮すべき。
  • 研修事業は取りやめにして2/3程度にする。
  • (2)児童厚生員等研修事業、(3)放課後子どもプラン指導者研修等事業は縮減ないしは廃止することが可能なのでは?研修事業は都道府県レベルで(都道府県補助金で)行うべき。児童劇は維持。
  • 天下り財団を通さず、直接現場や子供に予算をまわす。
  • (2)児童厚生員等研修事業、(3)放課後子どもプラン指導者研修等事業は不要。劇巡回に絞って、その予算を文科省で実行。財団役員の給与は二人で平均1,300 万円も必要なはずはない。
  • 役員の人件費は大幅に縮減していただきたい。その分を劇団にまわして欲しい。このような良心的な劇の提供は続けるべきと思う。劇団は儲かっていないはずなので安易な予算削減は慎むべき。このようなものを削るより先に公務員給与のカットを行うべき。
  • 劇は自治体で既に工夫し実施済みである。地方に財源を移し委ねるべき。研修は国家資格ではなく、地域で様々な特色のある研修を行っている。こちらも地方へ。財団の運営も見直すべき。収入の40%が補助。
  • まず、本事業は速やかに地方自治体へ任せる。次に?児童館自体の運営 ?学童への文化教育・支援を担当する省庁を一本化する。原則として、最終受益者、児童館(現場)により多くの資金が渡るようにすべき。制度設計を簡素化する。
  • 事項要求ではなく、本予算に入れるべき。文化庁文科省の事業との違いを大切にし、一本化して実施すること。財団法人を関与させない。
  • 児童の保護に欠けるものや仕事と子育ての両立など、厚労省は最低水準の引き上げに集中すべき。優良コンテンツに触れるという部分や研修は、できるだけ一本化すべき。
  • 財団法人の任意の資格制度への補助金は不適切。

どうにも疑問なのですが、本当にこういう議論でいいのでしょうか。たとえば、上記の資料の最後に付された財務省の言い分をみてみますと、

  • 優良児童劇巡回事業は約1,800市町村・2万学区に対してのべ212回行われているに過ぎず、効率に疑問がある。
  • 文化庁の類似事業との重複がある。
  • 研修事業は、対象者の自己負担で資格取得すればよい。児童指導に必要な研修は市町村が行うものに参加すれば足りる。
  • 放課後子どもプラン推進事業は、行政が行うべき執行状況の検証であり、外部委託する必要はない。

となっています。まあ、必ずしもこれに沿った議論をする必要はもちろんないのでしょうが、「効率に疑問がある」という指摘は議論にあまり反映されていないように思われます。

  • 以下やや煩雑になりますが、資料によれば事業は平成20年度に劇が289回、映画が209回、計498回行われているとなっていて、財務省のいう「212回」とはかなり数字にへだたりがあります。ただ、予算のほうも平成21年度の217百万円・うち優良児童劇巡回事業180百万円に対して平成20年度は303百万円と多くなっています。内訳は不明ですが、同割合とすれば平成20年度の優良児童劇巡回事業は251百万円となります。想像するに、映画のほうは基本的にはライセンス料(機材は児童館に整備されているでしょう)が出るだけで、費用の大半は劇に対してのものでしょうから、劇の回数だけをカウントしたのかもしれません。であれば、251百万円で289回が180百万円で212回というのは算術としてはだいたい合っているように思われます。さらにその内訳として、これらに係る人件費は別に30百万円とされていますので、残る150百万円はほぼ劇団へのギャラということになりそうです。したがって1回平均約70万円を劇団に払っているという計算になります。

この事業では劇団の公演1回あたりにつき約70万円を支出しているわけですが、はたしてこの単価は妥当なのでしょうか。この事業で公演している劇団などのウェブサイトをみても経理の状況や団員数などのまとまった情報は開示されていないので検証は難しいのですが、たとえば平成21年度の事業(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/09/s0918-8.htmlに事業の対象となる劇団が掲載されています)で公演している「劇団うりんこ」の団員は6人となっています(http://stage.corich.jp/troupe_detail.php?troupe_id=1402)。公演スケジュールをみると、ほぼすべての週末プラス祝日・若干の平日に興行しているようですから、まあ年間150回くらいになるのでしょうか?同じく「劇団ポポロ」は会社組織になっていて、人形の製作販売なども行っているようですが、この劇団のウェブで求人が公開されています(http://j.yapy.jp/offer/08921516/)。それによれば「月給13万円以上」。まああまり良好な条件とはいえませんが、公演のない平日に兼業すればなんとか、という水準ということでしょうか。今も昔も芸術だけで喰っていくのはなかなか難しいということなのでしょう。
さて、これで公演1回70万円は妥当なのか?ということですが、はたしてどうなのでしょうか。遠隔地では交通費だけでも結構な額になるでしょうから、こんなものなのでしょうか。まあ、評価者コメントにあるように「劇団は儲かっていないはず」というのは容易に想像がつきます。ですから、劇団にしてみればギャラはたしかに高ければ高いほうがいいに違いありません。ただ、劇団の支援のためならそのために直接補助金などを出せばいいわけで(実際、別途助成も出ているのではないかと思います)、そのために「児童の健全育成」というスキームで高い対価で仕事を出すというのがいいかどうかは議論があるでしょう(ただ、これらに対してこの事業では「児童福祉文化財」と称していて、なるほど「文化財」というネーミングには公的助成の対象というイメージはあります)。
もし70万円が40万円でできれば、「児童の健全育成」のための公演回数を大幅に増やすことができるはずで、そのほうが事業としてははるかに「効率的」といえるでしょう。「児童に優良な児童劇・映画等に触れる機会を作るのは重要」だというのであればまずはこうした検証をすべきなのに、そこで思考停止して財団の批判にばかり向かってしまうのはいかがなものかと。まあ、財団がいいというわけでもありませんし、財団をリストラして劇の回数を増やすという意見ももっともというか、当然考えられるわけではありますが。
さて少し長くなってきましたし、ブログもたまっているので、続きは翌日に回します(笑)