「POSSE」第4号続き

10日のエントリの補足を少し。

木下武男先生はどのような社会を構想しておられるのか?

まずはネタです(笑)
木下先生は「格差論壇」MAPの第1象限、「福祉国家」に位置するということですが、木下先生の所論をもとに私なりにまとめてみると、こんな感じになるでしょうか。私の想像が相当入っていますので、おそらく木下先生のお考えとは異なる部分も多いかもしれませんがご容赦ください。

 労働者の賃金は「ユニオン」と使用者団体?との中央団体交渉、または「ユニオン」と国家との協議によって「ジョブ」別のテーブルとして決定される。賃金に限らず、労働関係の規制等も同様である。賃金には生計費は考慮されず、それが確保されない場合は国家が福祉としてそれを提供する。ジョブが同じであれば、年齢、性別、国籍、勤務形態、保有能力、努力ぶり、業績への貢献度などは一切無関係に同一賃金である。ただし、経験年数に応じた昇給は存在し、その水準も中央団体交渉または協議で決定される。企業業績に対応した賞与などは存在しない。企業は必要な「ジョブ」について、そのスキルを有する労働者を採用する。労働者はもっぱら自らの「ジョブ」のみを行い、他の労働者を手伝うなどのことはしない。企業は労働者に教育訓練を実施しない(そのインセンティブを持たない)。企業は労働者を解雇できず、賃金を変更することもできないが、労働者はいつでも企業を退職でき、かつ同じ「ジョブ」の仕事に(当然ながら)同じ賃金で転職できる。失業中は国家が失業者の通常の「ジョブ」における賃金水準と同様の失業扶助を行い、それは労働者が同じ「ジョブ」の新たな仕事を紹介されるまで継続する。あるいは、同一の「ジョブ」の仕事がなく、労働者が新たなスキルを必要とした場合、国家がその責任において労働者にそれを習得させる。習得する期間は、やはり国家が失業扶助を給付し、それは労働者が新たなスキルを必要とする別の「ジョブ」の新たな仕事を紹介されるまで継続する。かくして国家は全国民に生計費を保障する。それに必要な財源は高率の所得税および付加価値税によってまかなわれる。

ああ、なんてバラ色の世界www

既存労組・諸政党

木下先生は格差論壇MAPの第4象限、規制強化で年功派のところに一緒くたにして押し込んでおられます。労組や諸政党には異論もいろいろありそうですが、まあそんなもんなんでしょうかね。
とはいえ、ここ2年くらいを見ると、諸政党(特に自民、公明、民主)はいずれも規制緩和も規制強化もジョブも年功もおかまいなし、とにかく次の総選挙で票につながりそうな大衆迎合的政策を競って繰り出すばかりで、およそマッピングしようがないのが実態ではないかと思うのでありますが。

最悪のひとことby池田信夫先生

五十嵐先生のこれにはマジ吐きました。

…中谷(巌)さんについては、色々と言いたいことがあります。戦争推進の旗を振った学者が、戦後になって間違えましたと許されるのか、ということです。…
 彼が推進した規制緩和政策のために、非正規になり苛酷で貧しい生活を強いられた若者がいたでしょう。経営が成り立たなくなって首をつって自殺した商店のおじいさんやおばあさんがいたかもしれない。タクシーが増えて交通事故で死んだ運転手や乗客がいたかもしれません。彼の提言によって実施された政策は具体的な結果を招いているんです。98年以降年間3万人を超える自殺者が11年連続で40万人近くになっているという惨状です。そのなかには、中谷さんが推進した規制緩和政策の犠牲者がいたかもしれない。いや、いるにちがいありません。
 このような現実に対する想像力がない。自らの行動に対する責任感がない。学者とはそういうものでいいのか。
(p.109)

吐くと同時に、タクシーのくだりでは思い切り吹きましたけどねwww
いや、中谷先生が軍事政権の独裁者で、すべて独断で政策を決定して実行し、バブル崩壊もその後の長期不況もすべて中谷先生が起こしたんだというんであれば、まあこのくらい言ってもいいとは思うんですけどね。
実際には、非正規の増加や商店街の苦境の相当部分は長期不況のせいだったわけですし、中谷先生ひとりが提言をしていたわけでもありませんし、中谷先生の提言がすべて実現したわけでもありません。逆に、多くの政策は、中谷先生が提言しなくても実現していたでしょうし。
また、中谷先生自身がどう言っているのか知りませんが、規制緩和によって新たに雇用が生まれたり、国民生活が豊かになった部分があることも間違いないわけですし。結果が出てから、悪い部分だけを取り上げて「責任感がない」とか、二度と口を利くなとか言われるのでは、誰も自由にモノが言えなくなってしまいます。この論法でいけば、五十嵐先生の信奉する(かどうか知りませんが)マルクスなんかは、すさまじい数の人の人生を破壊したことになるわけで。逆に、中谷先生が、いまの日本の状況はすべて自分が作り出したのだと思っておられるとしたら(案外思っておられるかもしれませんが。そんなことはないか)、それこそ誇大妄想というものでしょう。
専門・最新の知見を行政に生かすということはやはり大切なわけで、学者はそれを提供するのが役割です。それを採用するかどうか判断し、どのように実行していくかを決めるのは政治の役割であって、その部分の責任を学者がとる必要は基本的にはないはずです。
まあ、これはこれでひとつの正義感でしょうし、意見を表明することはもとより自由ではありますが、それにしてもこのような自由な言論を圧殺するかのような議論を正義の面をかぶって述べ立てることは、こればかりは池田信夫先生の「最悪のひとこと」という評価(http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/4dc0903837e07b68d94a579720a4ed97)に同意です。