我が身を省みれば

きのうの「管理職者が陥りがちな思い違い」ですが、きのうコメントした「4」に限らず面白いものがあるので、もう一日使わせていただいて(笑)、多分に自戒の念もこめながら一言ずつコメントしていきたいと思います。

(解雇されずに)仕事があるだけ運がいいと思え(Feeling people are lucky just have a job.)

管理職者というか、こういう思い違いって世の中に幅広く蔓延してますね。「選ばなきゃ仕事はあるんだから、ゼイタク言ってニートやってるくらいならなんでもいいから働けよ、甘えてるんじゃねぇよ、まったく今の若い奴らときたら…。俺たちの若い頃なんかな、上司に殴られながら汗と油にまみれて働いてな…」みたいな人たちですね。まあこれは誇張があるとしても、近いものがある人ってけっこういるでしょ?前段だけなら、案外若い人でもけっこう言ってるような気もします。
それはそれとして、社内で管理職者がこういう発言をするのってどういうシチュエーションなんでしょうね?もちろん、部下に無理や理不尽を命じるときに「仕事があるだけ運がいいと思え」というのもあるでしょうが、むしろ日本企業の場合だと、上司がその上司から無理や理不尽を押し付けられて、部下との板ばさみになって「まあ、このご時世仕事があるだけ運がいいと思わなくちゃいけないよな…」と悲しい愚痴をこぼす場面というのが多いような気がします。まあ、これも職場の士気を下げこそすれ高めはしないでしょうが…。

達成不可能な場合でも、君ならできる、と仕事を振ればできるはず(Making work"mission impossible".)

おお、「スパイ大作戦」か、懐かしいねぇ。「なお、このテープは自動的に消滅する。幸運を祈る」ってね…。成功を祈る、だったかな?どっちにしても、命令して祈るだけで消滅しちゃって、指導もプロセスフォローもない上司ってのは最低ですね。でもって、「例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで」とくるんだからなぁ。例によって、ですぜ。で、この手の上司は、最後にもう一度出てきて「なぜジム・フェルプスのように働けないんだ!」とか怒鳴ったりしてね。
まあ、この手の上司ってのは、自分もそういう働き方をしてきた、有能でやり手の人が案外多いのでは。自分だってそうやってのし上がってきたんだから、お前らだってそうやって当たり前だろうと。それができるビジネスマンってもんだぜ、俺は使えない奴は要らないんだ…ってパワハラ一直線。

部下と管理職は一心同体だ(Tying your employees' hands.)

これって一心同体って意味なんですねぇ。知らなかった。これだとばかり思ってましたhttp://en.wiktionary.org/wiki/tie_one's_hands。あれこれ部下に制約を課して身動き取れなくする上司ってのもよくいますけれど…きっと、自分もそうやって上司の意を忠実に体現することで現在の地位を築いたんでしょうねぇ。もちろん、過度に「一心同体」を意識されても鬱陶しいことも事実ですが。立場が違うんだから、一心同体といってもどこかに無理がありますわな。

長時間働く部下はいい部下だ(Equating busy with productive.)

これはきのう書いたとおりなんですが、ただ、いい加減に働いてろくに仕事もせずにさっさと帰る部下に較べれば、能率は悪くとも長時間働いてそれなりに自分の仕事は全うする部下のほうが高く評価されるのは、これはこれでもっともなところもあるかもしれません。能力でも職務でも成果でも貢献度でもなんでも、きちんと評価の考え方を整備してそれに沿って評価していく、というのは現代企業では常識ではないかと思うのですが、こうした必ずしもデジタルに計測できないものでの評価に自信が持てないと、どうしても数字ではっきりする残業時間の多さとかで評価してしまうんでしょうかね…。ときに、busyは必ずしも長時間とは限らないのではないかという気がしますが…まあ意味するところはそういうことなのでしょうか。

景気好転は待つしかない(Waiting for an economic turnaround.)

ロバート・ハーフ・ジャパンでは「「景気が戻るのを待つより、今、行動することが大事」とコメント。いいアイデアがあれば景気回復を待つ必要はなく、逆に競合他社の一歩先を行くチャンスだ」とコメントしているとか。たしかに、景気そのものを回復させるのは難しいにしても、「今は景気が悪いから何をやってもダメだ、回復を待とう」とただ手をこまぬいているというのも部下の士気には悪影響でしょう。まあ、たしかに無理や無謀は避けるべきで、「待つ」ことの大切さは、それはそれであるんですけどね…。

噂は放っておけばいい(Ignoring rumors.)

自分たちの職場、仕事に悪い噂が流れているときに「そんなの気にするな、放っておけ」というだけの上司というのも、たしかに部下の意欲を低下せしめるでしょう。たしかに噂の大半はクズでしょうが、悪影響のあるクズは排除の努力が必要でしょうし、中にはそれなりに参考にすべき?噂だってあるかもしれません。管理職たるもの、自分たちがどう見られているかに気を使うことは大切でしょう。

仕事を達成し、成果が見えた段階で褒めてあげればいい(Saving the praise for last.)

これこそまさしく「成果主義」。一時期、ずいぶん流行しましたねぇ。働いた時間の長さや、年齢や勤続年数は関係ない、いくら努力したって成果が上がらなければ意味がない、すべては成果で評価されるのだ…。

優秀な部下は放っておいても目標達成できる。そのまま放置しておけばいい(Failing to give star treatment.)

まあ、たしかに中にはそういう部下もいるでしょう…少数ですが。で、言うまでもなくそういう部下こそあれやこれやとインセンティブを与えてリテンションをはからなければならないのは当然なわけで。

部下は意思決定をする必要はない(Not standing by your employees.)

意思決定しない管理職というのも困ったものですが、すべて自分が意思決定しなければ気がすまない管理職というのも同じように困ったものですね。お前らはなにも決めなくていい、俺の決めたとおりにしろ、なにか決めるときは必ず俺に確認しろ…で、決めるときにも部下にはおかまいなしで「重役がこう言ってるんだから、こうだ」。これでやる気が出る部下がいるとしたら驚きです。

経費削減の一貫として、研修費も削減すべき(Cutting back on trainings.)

あれ、能力開発は自己責任じゃないんですか?と言ってみる(笑)。まあ、日本企業の場合だとカネで買う研修は実は切ってもそれほど問題はなかったりもしそうで、むしろ職場での人材育成がどれほど行われるか、が重要かと思われます。経費削減で派遣社員やパートタイマーが減り、残業も抑制され、ということになると、部下や若手に仕事を任せて上司やベテランが指導する、といったOJTをやっている余裕がなくなって、上司やベテランが「まあいいや、自分がやるから…」ということで人材育成が滞りかねません。で、それは当然、部下や若手にしてみれば仕事を任せてくれない、いつまでも簡単な仕事ばかり…という不満につながるわけで。


うーん、しかしこの「10の見解」、虚心に我が身を振り返ってみると、われながらかなり該当するものがあることは率直に認めざるを得ません。不景気のせいばかりではないでしょう。自戒自戒。実際、日本企業では私も含めて世の上司、管理職者のみなさんも、若い頃から上司、管理職だったわけではないことがほとんどでしょう。で、中には若い時分にこうした目にあわされた経験のある人も多いはずで、そういうかつての上司を反面教師にすればいいのに…とも思うわけですが、やはりそう簡単にはいかないようです。立場が変わればどうしてもその立場で物事を考えるので、まあそれで初めてわかることもある、ともいえるのでしょうが、それにしてもかつてのことはあっさり忘れてしまったりするものなのでしょう。