正社員vsハケン

なかなか勉強になりますので、もう少し続けます。ちょっと戻って1月31日のエントリ「正社員vsハケン」http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c0bc77919186195e0d3767217bab5be1です。週刊ダイヤモンドの特集の紹介です。

…特集の焦点が「正社員の既得権」になっているのは一歩前進だ。菅直人氏もインタビューで登場しているが、製造業の派遣については「継続すべきか否か議論している」と後退した。当たり前だ。この不況のさなかに、製造業の派遣労働者46万人の雇用を禁止するなんて、世界にも類をみない愚劣な法案だ。「お涙ちょうだい」で集票効果をねらったのだろうが、朝日新聞でさえ世論調査で「かえって雇用が減るという意見もある」と付記して、製造業の派遣禁止に46%が反対した。
 厚生族の川崎二郎氏が「雇用責任」を強調しているが、これはナンセンスだ。企業が労働者を正社員として雇用する責任なんてない。むしろ重要なのは、雇用可能性(employability)である。派遣労働者が「技能を蓄積できない」とよくいわれるが、実は日本のサラリーマンの技能の大部分もfirm-specific skillで、会社の外では通用しない。
 特にひどいのは、いろいろな部署を回るキャリア官僚だ。先日ある経営者に「天下り規制がなくなったら、もっとキャリア官僚を採用するか?」ときいたら、「うちにも天下りはいるが、役所との顔つなぎ以外に使い道がない。民間の仕事を知らないくせに、プライドが高くて使いにくい」。採用するなら30代までで、50代になると「商品価値はゼロ」とのことだった。官僚もそれを知っているから、天下り禁止に激しく抵抗するのだ。
 こういう文脈的技能は、高度成長期のように市場が拡大していて配置転換で需要の変動に対応できる時代には意味があったが、今のように製造業全体の規模が絶対的に縮小してゆく時代には、外部労働市場で通用する一般的技能をもっていないと、会社がつぶれたら食っていけなくなる。この意味では、正社員も派遣と同じリスクを抱えているのだ。雇用可能性を高めるには、今の若者を対象にした大学や大学院のしくみを改めて、労働者の再教育機関として位置づけ直す必要があろう。

エンプロイヤビリティというのも一時期流行したことばで、懐かしい響きがありますが、それはそれとして、「日本のサラリーマンの技能の大部分もfirm-specific skillで会社の外では通用しない」というのは、実際に転職が一定規模で起きていることをみても、やや言い過ぎではないかと思います。実際、正社員であればジョブ・ローテーションや人事異動、あるいは昇進昇格などによって仕事の幅を広げ、徐々に高度な仕事を経験することを通じて、より高い知識や技術、ノウハウを蓄積しているわけで、その中にはfirm-specificなものも、generalなものもあるでしょうが、おそらくはかなりの割合で会社の外でも通用するgeneralなものも含まれていると思われます。さらに、firm-specific skillが「会社の外では通用しない」というのは定義上明らかではあるのですが、とはいえ多少の修正で通用してみたり、あるいは転職先のやり方のほうを変えてしまったり、といったことが起こるのが技能というものなわけで、そうそう、捨てたものではありません。もちろん、企業特殊的熟練が剥落する分は、転職で賃金は下がることが多いでしょうが…。いっぽう、派遣労働者にはこうしたキャリア形成は難しく、それが「技能を蓄積できない」といわれるわけで、やや問題の所在は異なります。
キャリア官僚についても多様なはずで(私は複数のキャリア官僚から転身した上司・同僚と仕事をしたことがありますが、民間企業人としてもきわめて有能で尊敬できる人たちでした)、一経営者の感想だけを一般化して一刀両断するのはいささか不公平でしょう。
「雇用可能性を高めるには、今の若者を対象にした大学や大学院のしくみを改めて、労働者の再教育機関として位置づけ直す必要があろう。」というのはまことに大胆な提言で、たしかにリカレント教育の重要性はあるとしても、「若者を対象にした大学や大学院のしくみを改めて」とまで言われたら、若者としてみれば俺たちの教育はどうしてくれるんだ、と言いたくならないでしょうか。まあ、これは若者まで含めてエンプロイヤビリティを高める大学教育をしよう、ということかもしれませんが…。
なお、これは気にするようなことではないのでしょうが、firm-specific skill(企業特殊的技能)に対応するのが一般的技能(general skill)であり、文脈的技能(contextual skill)に対応するのは機能的技能(functional skill)だろうと思うのですが、まあ議論に直接の影響はないわけですが…。