オランダ・モデルは本当にうまくいっているのか?

 ――ワークシェアリング(仕事の分かち合い)は選択肢になるか。
 「まだ論点整理の段階だ。日本経団連のいうワークシェアリングは私から見れば、生産・雇用調整だ。オランダのように政労使が一緒に仕組みをつくる必要がある。夫の年収を下げる代わりに、妻に仕事の場を用意するといった具合だ。個人も痛むが、政府・経営も努力して仕事をつくった。日本でも残業ゼロを義務づけ、ワークライフバランスに配慮することなどが検討できる」
 ――賃金が下がれば労働者に反発があるのでは。
 「一九九〇年代に残業を減らしたときも労働組合員の抵抗は大きかった。今回も個別企業で見れば抵抗もあるだろう。ただ経済全体で見れば痛みを緩和する意味は出てくる」

義務づけるかどうかはともかく、残業をしているのに雇用が減っていくというのはやはりおかしいわけで、製品により、あるいは職場により多少の差はあるにしても、やはり残業を最小限にしてから雇用を減らすというのが常識的な手法というものでしょう(まあ、自然減や雇い止めなどは一部並行して進むにしても)。これは多くの産業・企業ですでに実践されているところと思います。
オランダ・モデルについては、前回、2001年〜2002年にワークシェアリングの議論が盛り上がった際にも大いに喧伝されましたが、それから6〜7年を経た現在、オランダの労働市場は本当にうまくいっているのでしょうか?たしかに、1980年代なかばから90年代を通じたオランダの失業率低下は劇的で、14%超から2%台にまで改善しました。しかしその後、2003年以降は4〜5%で推移しています。パートタイム労働者比率は3分の1を上回っている(まあ、これは内容の違いのほうが重要でしょうが)そうですから、失業率も非正規比率も日本とそれほど変わりません。2001年当時すでに、生産性の低下などの問題点が指摘されていましたし、オランダでは失業率が低いわりに就業率も低く、失業者としてカウントされていない障害年金受給者(全人口の6%近いとか)や職業訓練受講者などを加えた潜在的失業率は27%にのぼるというOECDの推計(1996年)もあるそうです。2001年当時はそのめざましいパフォーマンスに目をみはったかもしれませんが、今日議論するのであればまずは現状がどうかをきちんと確認すべきですし、今回の景気後退期のパフォーマンスがどうかも検証すべきでしょう。別にオランダが悪いと言っているわけではなく、きちんと実態を確認して議論すべきだということです。
1990年代に労組は労働時間短縮に熱心に取り組みましたが、その際にも所得選好の強い労働者からは残業代が減ることへの強い抵抗がありました。このときは、労組は組織としてそれは受け入れる、それでも時短をやるという意思決定をして取り組んだわけですが、今回はすでに多くの企業で残業代は大幅に減少していることでしょう。そこからさらに賃金が低下しても、雇用が守られるのであればそれでいい、という意思決定を連合としてできるのか、それを下部組織、末端にまで徹底できるのか、ここは連合の力量が問われるところです(それは裏を返せば経団連の力量が試される場面でもあるわけですが)。