派遣法改正の建議

きのう発表された労働者派遣制度の改正についての労働政策審議会建議が厚生労働省のサイトに掲載されました。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/dl/h0924-3a.pdf
その主な内容を私の主観でピックアップすると、こんな感じでしょうか。要約は必ずしも正確ではないかもしれません。

[日雇派遣の禁止]
 日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならない。ただし、いわゆる26業務のうち、ソフトウェア開発、機械設計、事務用機器操作、通訳、翻訳、速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、添乗、案内・受付、研究開発、書籍等の製作・編集などは例外とする。

[登録型派遣の常用化]
 1年以上勤務している、期間を定めて雇用する派遣労働者等の希望を踏まえ、期間の定めのない雇用への移行を促す措置を派遣元事業主に課す。

派遣労働者の待遇の確保]
 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、賃金を決定する努力義務を派遣元事業主に課す(派遣先の同種の労働者の賃金を考慮要素の一つとして指針に明記)。
 派遣労働者等のキャリアパスを考慮に入れた適切な教育訓練の実施、就業機会の確保等を講ずる努力義務を派遣元事業主に課す。
 派遣料金、派遣労働者の賃金、これらの差額の派遣料金に占める割合等の事業運営に関する情報の公開義務を派遣元事業主に課す。

[労働力需給調整機能の強化]
 期間の定めのない雇用契約派遣労働者について、特定を目的とする行為を可能とする。
 グループ企業(親会社及び連結子会社)内の派遣会社が一の事業年度中に当該グループ企業に派遣する人員(定年退職者を除く)の割合を8割以下とする義務を派遣元事業主に課す。
 離職した労働者(定年退職者を除く)を元の企業に派遣することについて、離職の後1年間は禁止する。

[法令違反等に対処するための仕組みの強化]
 適用除外業務への派遣、期間制限違反、無許可・無届け事業所からの派遣又はいわゆる偽装請負であって派遣先に一定の責任のある場合、派遣先に対し行政が賃金及び雇用契約期間について従前以上の条件で雇用契約を申込むことを勧告できることとする。

基本的には研究会報告の線にそったとりまとめとなったようです。ただ、日雇派遣を可能とする業務の範囲や、専ら派遣の規制対象となる子会社の範囲などは、研究会報告からさらに具体的なものとなっています。
8月1日のエントリでも書きましたが、研究会報告では日雇派遣禁止の適用除外となる業務について非常に幅広いグレーゾーンをとった書き方になっていました。まあ、当時から26業務のうちのいくつかになるだろう、という予測はあったわけですが、建議をみると主だったホワイトカラー業務はほぼ例外とされたという印象があり、やはり例外の範囲はかなり広く取られたようです。
また、専ら派遣の規制対象は持分法適用会社などは含まない連結子会社となったようで、これもまあ現実的な結論でしょうか。まあ、そもそもインハウス派遣で働く人には満足度の高い人も多く、中でも定年退職者の再雇用の受け皿となっている場合にはこの規制の対象外とすることとされたのは妥当といえましょう。育児などのために退職した人の再雇用の受け皿として活用されているケースも多く、この場合も満足度はかなり高いと言われていますが、こちらは規制の例外とはなりませんでした。聞くところによると、労働者代表委員から「派遣を女性に固定するもの」として強い反対があったそうですが、現実に満足度高く働いている女性がこの規制のせいで職場を失うようなことが起きてもかまわない、ということなのでしょうか。これに限らず「労働力需給調整機能」という議論をしはじめると往々にして派遣労働者の利益を忘れた観念論に陥ることが多いように見受けられ、今回の建議もこの部分に関しては八代尚宏先生に「派遣労働者のための法律ではないということで宜しいか」と一喝されそうです。
もっとも、インハウス派遣の規制については派遣業界も必ずしも一枚岩ではなく、独立系の派遣会社にしてみればライバルである企業系の派遣会社が規制されることはむしろ歓迎であろうことは容易に想像できるわけで、そういう意味では八代先生の喝破は経営サイドにも該当するといえるかもしれません。
さて、審議会では今臨時国会での法改正を念頭に議論が進められてきたわけですが、昨今の政治情勢からして、果たしてどうなることやら予断を許しません。近いとされる総選挙で民主党が勝利すれば、一段と規制強化の方向であらためて検討、ということも起きるかもしれません。まあ、建議まで出た以上は、基本的にはこの内容で法制化されるのではないかと思いますが…。そういう意味では、今回の建議は、今後さらに不利な状況になる危険性を重視した経営サイドが、内容的には譲歩しつつもとにかくまとめるという作戦をとった産物なのかもしれません。