規制してすむ話ですか?

 舛添厚労相が、最近なにかと批判の多い「日雇い派遣」について、強く規制する方向性を表明しました。

 舛添厚生労働相は13日の閣議後記者会見で、「日雇い派遣については、やめるような方向でやるべきだと思っている」と述べ、秋の臨時国会日雇い派遣の原則禁止を盛り込んだ労働者派遣法改正案の提出を目指す考えを明らかにした。
 舛添厚労相は会見で、「メーカーなどでは常用雇用が普通で、基本的には日雇い派遣はいかがなものか」とし、通訳などの専門的な業種は除いた上で、製造業などへの日雇い派遣を原則禁止したいとの考えを表明。
 「日雇い派遣はあまりに問題が多い。かなり厳しい形で考え直すべきで、労使の意見も聞いた上で、秋には法律の形できちんと対応したい」と述べた。

 派遣については、今月6日に開かれた政府の社会保障国民会議で、福田首相が「派遣労働者を守る制度が空洞化することは絶対に回避しなければならない。さらなる取り組みを直ちにお願いしたい」と述べ、舛添厚労相に早急な対策強化を指示していた。
 日雇い派遣をめぐっては、日雇い派遣大手「グッドウィル」が違法派遣を繰り返していたとして事業停止命令を受けたほか、「ワーキングプア」の温床と指摘されるなど社会問題化しており、労働組合などから規制強化を求める声が高まっていた。
(平成20年6月13日付読売新聞朝刊から)

この問題についてはhamachan先生が広汎にフォローしておられますが、はたして日雇い派遣を禁止すれば問題の解決になるのかといえば、話はそれほど簡単ではないと思われます。
実際、日雇い派遣そのものは、企業だけではなく、一部の働く人にとってもそれなりに便利なしくみと考えられると思います。たとえば、学生のアルバイトや、定年退職後の高齢者などで、都合のいい日にちょっとした仕事をして小遣い稼ぎをしたい、というような人にとっては、いちいち職安や新聞などの求人広告をチェックするまでもなく、登録しておけば携帯メールで日雇い仕事の口を連絡してくれて、自分の都合のいい日時、内容の仕事を選ぶことのできる日雇い派遣はなかなか役立つ存在なのではないでしょうか。
本当の問題点は、安定した仕事、より労働条件のよい職に就きたいのだけれど、それがかなわずに不本意ながら日雇い派遣で働いている人(とりわけ将来のある若年)がいる、というところにあるはずです。日雇い派遣を禁止すれば、とりあえずそういう人が日雇い派遣で働くことはできなくなりますが、それでは即座にもっと安定した、条件のいい仕事につけるのかといえば、さすがにそうはいかないでしょう。当面はまず失業は避けられないでしょうし、日雇い派遣ではなかなか技能の蓄積も見込みにくいですから、職探しをしても良好な雇用機会を得ることはなかなか難しいかもしれません。結局、直接雇用の日雇いの職しか得られず、収入はかえって減ってしまう(企業サイドの採用コストが派遣利用より高くなればあり得る事態)危険性すらあります。
必要なのは、日雇い派遣を禁止して便利に利用している人にまで不便を強いることではなく、望まずして日雇い派遣で就労している人がより望ましい仕事に移行できるよう支援することのはずです。こうした人たちが職探しをする期間の生活費の保障や、よりよい職を得るために必要な技能修得や広域移動の支援といったことが考えられます。そしてなにより重要なのは、経済を活性化し、企業活動を活発にすることで労働需要を増やすことでしょう。求人が増えて人手不足になれば、安定した条件のよい求人も増えるでしょうし、日雇い派遣の単価も上がるでしょう。さらに人手不足が強まれば、企業は未熟練の人でも採用して自前で育成することになり、それによる技能向上が処遇の改善につながるという好循環が期待できます。
日雇い派遣を禁止しても、それが直接雇用の日雇いになったり、失業が増えたりするだけでは意味がありません。日雇い派遣以外の職を増やせば、日雇い派遣を望まない人は違う職に移ることができるようになるわけで、日雇い派遣禁止ほどには短絡的ではないにしても、けっこう単純な理屈だと思うのですが、そうでもないのでしょうか。