キャリア辞典「ダイバーシティ」(4)

「キャリアデザインマガジン」第72号のために書いたエッセイを転載します。

 わが国産業界にダイバーシティ・マネジメントが本格的に紹介されたのは、旧日経連が2000年に発足させた「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」の活動によってだろう。その最終報告は2002年5月に発表されたが、その際の報道発表資料によると、「ダイバーシティ」はこう定義されている。
ダイバーシティとは「多様な人材を活かす戦略」である。従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略。』さらに、解説として『ダイバーシティは、企業の成長と個人のしあわせをもたらす。新たな価値・発想の導入によって、企業にとっては、優秀な人材の確保、変動するマーケットへの対応力強化、グローバル化への対応、他社との差別化を図ることができ、個人にとっては、自らの価値によって働き方、ひいては生き方を選択し、決定できる。』となっている。外資系企業の先進事例調査をもとにまとめられていることもあり、基本的な考え方は米国流のそれと類似しているが、属性だけでなく働き方の多様性にも着目していること、ワーク・ライフ・バランスやキャリアデザインの考え方の萌芽がみられることなど、この時期としては注目すべき内容をふくんでいる。
 はたして、こうしたダイバーシティ・マネジメントは現実にこうした効果を上げているのだろうか。わが国ではそもそもダイバーシティ・マネジメントが普及しているとはいえないので、検証することも難しいが、先行した米国ではさまざまな調査が多数行われているという。それらをみると、ダイバーシティはコミュニケーション・ギャップなどのコンフリクトを生みがちであり、それによるパフォーマンスの低下が発生する傾向があるということはほぼ確実にいえるらしい。実際、これは旧日経連の研究会報告でも指摘されているところであった。同報告では、こうしたコンフリクトを軽減・解消するための取り組みを行うことで、ダイバーシティがもたらす人材確保や組織の活性化などによりトータルではパフォーマンスが向上すると主張しているが、これについてはそれを支持する結果は多くないのが実情らしい。
 したがって、ダイバーシティがパフォーマンスを高めるという主張にはまだ確たる証拠はなく、いわばオカルトである可能性は残されている。とはいえ、米国では現にこれが効果を発揮していると主張する企業の事例もあるわけで、コンフリクトの軽減・解消のための手立てなど、管理手法が改善されることで大きな効果が生まれてくるかもしれないという希望も十分持てるだろう。わが国においても、好事例の出現が待たれるところだ。