障害者雇用への2つのアプローチ

きのうに続いて労働政策研究会議の感想を書きたいと思います。自由論題セッションは3つ聴講したのですが、2つめは元身内の応援でしたので省略させていただいて、3つめは第1会場の長谷川珠子日本学術振興会特別研究員の「日本における障害を理由とする雇用差別禁止法制定の可能性−障害をもつアメリカ人法(ADA)を手がかりとして−」を聴講しました。日本が障害者雇用政策として法定雇用率を採用しているのに対し、米国では差別禁止法(ADA)によっているということで、その比較と日本への展開可能性について検討したものです。
ADAは、当該職務に適格性を持ち、合理的便宜を提供すれば職務の本質的機能が遂行できる障害者について差別を禁止するものです。企業に対して過度の負担とならない「合理的便宜」の供与を使用者に義務付けているのが最大の特徴ということです。障害者の人権という観点からは優れているいっぽう、職務の本質的機能を遂行できない障害者は適用外となるという限界があります。
そこで日米両国の実情ですが、日本では法定雇用率の義務化以降障害者雇用率は上昇していますが、全体の実雇用率が法定雇用率を上回ったことはなく(2005年6月で1.49%)、10年ほど停滞が続いており、未達成企業が2005年6月で57.9%となっています。これに対し、米国ではADA制定前後で障害者の賃金に変化はみられないものの、21〜39歳の男性について障害者の雇用水準の著しい低下が観察されているとのこと。
こうした現状をふまえ、報告者はわが国において雇用割り当てアプローチ(日本型)と差別禁止アプローチ(米国型)の融合を提案しました。
報告者は外部労働市場の動向にもっぱら関心を向けていましたが、企業の実務家としてはすでに雇用されている健常者がなんらかの事情で障害者となった場合にどうなるかが当然気になるところです。わが国においては、こうした場合には別に適職を探すなり作るなりして配置転換し、障害者もその職務に適応するよう努力することで雇用を継続する、ということが広く行われています。これに対し、米国の場合は「合理的便宜」で対応できない場合は「職務の本質的機能」を遂行できないということで解雇となり、配置転換までは行われないものと思われます。合理的便宜については「過度の負担」について使用者に配慮されていますので、おそらくは解雇となるケースが多いのではないでしょうか。理念はともかくとして、どちらが障害者にとって幸福なのかということを考える必要はあるでしょう。
また、こう考えると、これは基本構造としては高齢者雇用とよく似ているように思われます。わが国では定年延長、継続雇用といったアプローチで高齢者雇用の促進をはかっているのに対し、米国では40歳以上については年齢差別を禁止するというアプローチをとっています。はたして、どちらのほうが労使双方にとって高齢者雇用促進につながる取り組みを促すのかということは、やはり相当程度考慮に入れられる必要があるでしょう。
なお、報告者は法定雇用率未達成企業が57.9%にのぼることをかなり問題視していましたが、これはやや大げさに受け止めすぎだと思われます。法定雇用1.8%という数字は、すべての企業が1.8%の障害者を雇用すれば健常者と障害者の失業率が同一になる、という計算になっていますので、1.8%以上雇用する企業があれば、その分1.8%雇用できない企業も出てきてしまうということになります。したがって、どうしてもある程度は未達成企業がでてきてしまうわけで、理想的にはもちろん0%が望ましいですし、どの程度なら許容範囲なのかもなかなか判断が難しいわけですが、法定雇用率がこういうものだということは承知したうえで数字をみる必要はあるだろうと思います。