フリーターにも雇用保険

厚生労働省雇用保険の加入条件の緩和を検討しているのだとか。

 厚生労働省は二〇〇七年度から、雇用保険の加入条件を緩和し、非正社員も入りやすくするための検討を始める。現在、雇用保険に加入するためには、同じ職場で週二十時間以上働くことが必要。これを複数の職場での労働時間を合算できるようにし、フリーターなども入りやすくする。雇用保険のすそ野を広げ、働く人の安全網を一層、整備する狙いだ。

 現在の制度で、働いていても加入できない最大の要因の一つが「同じ職場で二十時間以上」という条件。例えばA社で週十五時間、B社で週七時間働くフリーターの場合、現在は条件を満たさず雇用保険への加入が事実上できない。
 厚労省非正社員の安全網の確保に向けて、この加入条件を緩和する必要があると判断した。非正社員の待遇改善などを目指す安倍晋三首相の「再チャレンジ」政策の柱の一つと位置付ける。四月以降、労使代表が参加する労働政策審議会厚労相の諮問機関)で制度改正への議論を始める。
 具体的には複数の職場を合算して週二十時間以上働いていれば、雇用保険への加入を認める方向。雇用保険料の負担方法や、労働時間をどう合計するか、複数の職を持つ人の失業をどう認定するのか、などの課題を労政審で検討する。
(平成19年2月16日付日本経済新聞朝刊から)

安倍政権はパートタイマーの社会保険加入拡大を「再チャレンジ」の目玉のひとつとしているらしいので、これもその一環かとも思ったのですが、これは労働時間の基準を引き下げるということではないようです。
これで救済されるのは、典型的には、複数のアルバイト先を掛け持ちしていて、それぞれの労働時間は短くても合算すれば週20時間を超える、という人になりそうです。こういう人がはたしてどのくらいいるのか、直観的にはそれほど多くないような気はしますが、それなりの意義はあるだろうと思います。
記事は「雇用保険料の負担方法や、労働時間をどう合計するか、複数の職を持つ人の失業をどう認定するのか、などの課題」があると書いています。たしかに、厳密に運用しようとするとなにかと難しい問題が出てきそうですし、おそらく最大の問題は、短時間のアルバイトを多数雇用している事業所では、この人がよそでどれだけ働いていて、合算すると20時間を超えるのか超えないのか、といったことをいちいち確認し、区別して管理するなどということは不可能だろう、というところにあると思います。
範囲の拡大でなにをしたいのか、ということを考えて、もう少しうまく運営できそうな制度設計ができないのか、検討の必要があるのではないかと思います。厚労省がどう考えているか知りませんが、私はフリーターと雇用保険の関係でもっとも問題なのは、失業給付を受けられないことではないのではないかと思っています。フリーターであれば失業給付の金額もさほどのものではなく、また、短時間のアルバイトをしている人の中には、単なる「小遣い稼ぎ」で、失業給付の必要性が低い人も多いでしょう。
むしろはるかに大きい問題は、教育訓練給付金をはじめとする就労支援策の相当部分が、雇用保険を財源にしていることから、雇用保険の被保険者しか対象にならない、というところにあるのではないかと思います。この問題に対応するとしたら、複数事業所の労働時間を合算したら週20時間を超える、という方法ではかなり不十分ではないでしょうか。
ではどうするか、というと、十分考えたアイデアではないので問題点もいろいろあるでしょうが、基本的に労働時間に限らず雇用保険には被雇用者全員が加入することにして、ただし一事業所で週20時間を超えて就労していない被保険者については(合算どうこうといった面倒なことは考えずに)失業給付の対象としない、とすることが考えられるのではないでしょうか。失業給付以外はほとんどがいわゆる「三事業」なので、労働者からの保険料徴収はなし、使用者からも三事業分だけを徴収、ということでいいかもしれません。
まあ、これでも現に就労していない、いわゆる「ニート」などは対象からもれてしまうわけで、ここにはさらに別途の手当てが必要になりそうですが、こうしたやり方のほうが安倍内閣の「成長力底上げ」路線になじむのではないかという気がします。