中国の労働契約法

一昨日の日経夕刊で、中国で解雇制限を強化する立法が進められていると報じられていました。

 中国政府は年内に成立予定の新労働法で中高年労働者などの解雇を制限する。定年まで勤める「終身雇用」契約を求めるなど、労働者保護を明確にする内容。失業増が社会問題になっているためで、企業はリストラが難しくなる。中国政府は労働者の最低賃金も引き上げるなど、国有企業改革以来の企業効率優先の路線を修正しつつあり、進出した外資系企業にとってはコスト上昇要因になりそうだ。
 全国人民代表大会全人代=国会に相当)常務委員会が審議中の「労働合同(契約)法」草案によると(1)雇用期間に一年などの期間限定がある契約を連続二回結んだことがある(2)十年以内に定年(男性は通常六十歳、女性は五十五歳)を迎える――などの労働者は、企業と新たに定年までの終身雇用契約を結ぶ権利を持つ。企業はこの権利を侵害すると賠償金支払いなど罰則が科せられる。
 企業が人員削減をする場合は勤続年数が長い労働者を優先的に企業に残さなければならないとしており、中高年の解雇が難しくなる。
(平成19年1月31日付日本経済新聞夕刊から)

おお、これはまさに中国版の「労働契約法」ではないですか。
で、記事によれば具体的な内容はこんなことのようです。

  1. 下記の労働者は雇用契約延長を申請する場合、定年までの終身契約を結べる
  • その職場で10年以上勤務している
  • 定年まで10年以内
  • 連続2回、期間限定の雇用契約を結んだ
  1. 20人以上または全従業員の10%以上を削減する場合、30日前に労組または従業員に説明しなければならない
  2. 人員削減時には以下の労働者を優先的に残さなければならない
  • 勤続年数が長い
  • 家族の中でほかに就業者がいない
  1. 労働契約は雇用開始後1カ月以内に書面化されなければならない

要するに勤続10年、または有期雇用契約の更新2回で正社員になれる、ということでしょうか。「2回」と「10年」のギャップに違和感がありますが、中国では有期契約の期間に上限がないのかもしれません。記事は「たとえば1年」と書いていますが…。また、米国流の先任権制度を規定しているのも面白いところです。
家族の中でほかに就業者がいない人を優先的に残す、というのは生活維持への配慮なのでしょうが、日本でこういうルールは作れるでしょうか。おそらく、共働き差別ということで非難轟々になりそうな気がしますが…。
また、日本の労働契約法の議論の中で、中小企業団体を中心に「事務処理負担が大きい」として大反対が起きている契約の書面化についてもあっさり盛り込まれているのも注目されるところです。おそらくは、中国では口約束を反故にする使用者も多いのでしょう。日本ではそんなことはないでしょうが、あまりに中小企業団体が強硬に抵抗するのを見ると、実はそれをやりたいから反対しているのではないかと邪推してしまいますが…。いや邪推ですよ、邪推。
記事によれば、「給与が高くなりがちな中高年労働者の解雇が難しくなる」ため「収益への負担になる」との「外資からの反発」もあるようですが、「日本のような終身雇用を前提とし、新たな人材育成の仕組みを導入。時間をかけて社員の競争力を高めようとする企業も出てきそうだ。」と、楽観的な見通しも述べています。まあ、たしかに欧米(特に米国)資本に較べれば日本資本のほうが多少は対応力はあるかもしれませんが、さてそううまく行きますかどうか。