三菱東京UFJフォロー

以前、三菱東京UFJ銀行契約社員を組織化するという話題を取り上げて(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20140404#p2)、その際に「契約社員は有期契約ではあるものの長期の勤続が期待されている実態があり、改正労契法の「5年で無期転換」との関連が注目される」といったことを書いたわけですが、この7月には契約社員を希望に応じて無期化して定年まで雇用するとの報道もなされました。Asahi.comから。

 三菱東京UFJ銀行は来年4月から、3年を超えて働いた契約社員が定年の60歳まで働ける制度を導入する。現在、契約社員は6カ月や1年ごとに契約を更新するが、希望に応じて定年まで無期限で契約する。雇用環境の改善で人手が不足しつつあるなか、契約社員の待遇を改善し、人材確保につなげる狙いだ。
 三菱東京UFJ銀の従業員4万4900人のうち、契約社員は1万1400人いる。多くは女性で、支店の窓口業務や事務を担当している。このうち9割は来年4月時点で勤続3年超となる。全員が希望すれば1万人以上が無期契約に切り替わる。大手企業でのこうした動きはまだ珍しい。
 契約社員を巡っては、昨年4月施行の改正労働契約法で、企業は5年を超えて働いた契約社員について、2018年4月以降、希望に応じて無期契約に切り替えることが義務づけられた。三菱東京UFJ銀は、同法の条件より前倒しで、より短い勤続年数の契約社員でも無期契約にする。
 このほか、契約社員に対しては新たに、3年間の休職制度や、有給休暇の繰り越しなども認める。こうした待遇改善でも、給与体系は大きく変えないため、人件費は増えない見通し。
 今後、労働組合との協議を続けて、8月に正式決定する。三菱東京UFJ銀では今年3月、契約社員が正社員と同じ労働組合に加入できるようになった。
http://www.asahi.com/articles/ASG7T2T80G7TULFA001.html

要するに有期反復更新で5年を超えたら無期転換ということなら、もともと長期を想定していたことでもあり、この際期間の定めはないことにしてしまえという話になったようです。
となると、「給与体系は大きく変えないため、人件費は増えない見通し」ではあるとしても、雇用調整面での柔軟性はどうなのか…などと思っていたところ、職場の回覧で回ってきた情報誌「選択」11月号でこれに関する記事を発見したわけです。お題は「契約社員の「差別と格差」が増幅 裏切りの三菱UFJ「新雇用制度」」となっておりますな。
さてそれによると記者は三菱東京UFJの「無期雇用転換した契約社員を対象にした就業規則案」を入手したとのことで、記事からその定めるところと思われる内容を抜き書きするとこんな話のようです。

  • 給与は時間給でボーナス、退職金、定期昇給はない。「成果報酬」について「支給することがある」としている。
  • 解雇事由として、拠点および施設の閉鎖、業務量の著しい減少など業務上の必要性が失われた場合が定められている。

それに加えて記者の取材として、「社員食堂の昼食は行員は333円、契約社員は533円」ということで、要するに現状では行員には福利厚生として昼食代補助が出るが契約社員はそうではないということのようですが、これが新制度でどうなるかについては記載はありません。また、「同行の人事制度に詳しい関係者」の解説として「時給単価は変えない」とも記載されていますが、まあこれは上記Asahi.comの記事からみてもそうなんだろうなという感じです。
さて記事は上記就業規則の解雇事由を引きながら契約社員の話として「無期といっても銀行は好きな時に切れる」と書いているわけですが、そう簡単にはまいらないでしょう。就業規則に解雇事由を定めればそのとおりに解雇できるということにはまったくならないということは人事担当者には常識ではないかと思われます。このあたりは昨今の「多様な正社員」議論でも話題になっているところで、少なくともこれまでは一応は勤務地限定、職種限定としながらも、現実には限定にこだわらない柔軟な運用が行われてきたことをふまえて一定の解雇回避努力が求められるとされてきました。ただまあ、今回の場合はこれまでも柔軟な運用はなく、今後もないということであれば、あるいは裁判所の判断も変わる可能性はあるかもしれませんので、三菱東京UFJとしてはやってみる価値があると思っているのかもしれませんが、まああまりありそうな話には思えませんが…。
ということで、記事は「これでは、これまであった行員と契約社員のほかに無期雇用転換社員という「新たな身分」を作ったようなものだ」「欺瞞に満ちた…新制度、全銀協会会長行としての品格が問われかねない」などと、あたかもそれが大変な悪事であるかのように書いていますが、まあ「選択」の記事だから仕方ないとしたものなのかなあ。現実的には、労契法改正当時から起きるだろうと想定されていたことが起きたに過ぎない(それでまったく問題なしとまで言うつもりはありませんが)のではないかと思いますが…*1。とにもかくにも無期になったのですから、むしろこの例においては改正労契法の意図したところは実現したと考えるほうが適当なようにも思えます。
なお、なんだかんだ言ってもこれまで有期雇用だったものが定年まで働ける無期雇用になるというのは相当に大きな待遇改善なわけですし、まあこれは従来も事実上そうだったということかもしれませんが、加えて上記朝日の記事にもあるように「新たに、3年間の休職制度や、有給休暇の繰り越し」が認められたりもしているわけです。となると、とりあえず見出しの「「差別と格差」が増幅」というのはまあ明々白々な誤りと言わざるを得ないでしょうねえ。まあそれこそ「選択」の記事だから仕方ないことなのでしょうが。

*1:実際、我が国に先駆けて類似の法改正を実施した韓国では、相当の規模で同様の事態が発生したとのことです。