やってみなはれ

昨日の日経新聞朝刊は、「第二部」として「2006年日経就職ガイド広告特集」がアペンドされていました。心もち例年に較べてボリュームが大きくなったように感じるのは、需給が締まってきたことの反映でしょうか。まだ2月ですが、大学ではすでに就活がスタート、白熱化しているとの話も聞きます。
さて、「第二部」の中身は例によって就職人気ランキングと、各社による広告記事をメインに構成されています。今年の人気上位は、トップがサントリー、2位が全日空で昨年と変わっていません。そして、各社の広告記事では、例によって各社の人事担当者が、就活にのぞむ学生さんたちに向けて「求む人材」「わが社に来たれ」とのメッセージをよせています。


さて、人気上位の会社の人事担当者の見解はといえば、トップのサントリー

 サントリーのDNAである「やってみなはれ」精神や自由闊達な社風に、何かおもしろいことができそうだという期待をよせられ、大変高い評価をいただき光栄です。

 大きな夢の実現に執念を持ち、既成概念や前例にとらわれることなく、常に新しいステージを切り開こうとする、元気で明るい「やんちゃ人間」を求めています。
(平成18年2月9日付日本経済新聞朝刊第2部から、以下同じ)

とのことです。うーん、「やんちゃ人間」ですか(見出しには本分にない「しなやかな」という言葉がくっついています)。
まあ、これは現実にやんちゃな人を求めているという直接的な意味というよりは、そういう人を歓迎する、そんな会社です、というメッセージでしょう。本当に「単にやんちゃなだけの人材」ばかり採ったのでは成り立たないことは間違いないわけで、案外、飾らずに率直に受験してくださいね、というところに要点があるのかもしれません。
続く全日空は、

 ANAグループは、顧客指向・変革力、人間力を持った人材を求めています。お客様に徹底的にこだわり、環境変化に対応するために何事にも果敢に挑戦し、国際性や熱意・バイタリティーなど他人とは違う何か、自分の持ち味をいかんなく発揮できる人。
…エアラインビジネスに魅力を感じ、仕事を通じて自らを成長させていける「あんしん、あったか、あかるく元気」な方をお待ちしています。

ということだそうです。「あんしん、あったか、あかるく元気な人」ですか。
ANAは人気上位だけあってさすがに強気?というわけでもないでしょうが、かなり求める人材像をあれこれ書いています。とはいえ、具体的にどうこうというよりは、やはりサントリーと同様に「こういう人を求めるような、そういう会社ですよ」というメッセージのように思えます。とりわけ、「他人とは違う何か、自分の持ち味」ということばには、特に特定の要素にこだわらず、多様な人材を採りたいという意向がうかがえます。
上位各社は日経から取材をして記事にしたようですが、広告特集ということで、おカネを払ってPRしている企業が26社あります。大筋では、いつものこの手の特集とそれほど変わらないのですが、感覚的には、「わが社はこんな会社で、社員にとってもこんなにいい会社です(人材育成を重視しているとか若手に機会を与えているとか)、こんなわが社にぜひ応募してください」というパターンが増えているように思えます。「こんな人材を求めています」と注文をつけるよりは、「ぜひ来たれ」というスタンスのほうを強く感じるわけです。やはり経済が回復して労働需要も増えてきて、企業としては採用のハードルを下げる、いわゆる「売り手市場」になっていることの反映でしょう。
いっぽう、「こんな人材求めてます」の中身はというと、やはり挑戦や積極性、成長意欲といった傾向が強くて相変わらずなのですが、よくみるとけっこう面白いものがあります。
広告を出している企業のなかに証券会社が何社かあるのですが、岡三証券の広告はこう訴えています。

 学部学科や現在の金融知識は問いません。仕事を通して成長したい方、人としての魅力に磨きをかけたい方に、岡三証券は最高の舞台を演出します。

また、新光証券の広告はこう訴えています。

…選考においても現在の専門知識や金融スキルよりも皆さんの価値観や個性、つまり「ありのままの自分」を見せていただきたいと思います。

証券会社はどの会社でも同じマーケットを相手に仕事をするわけで、そのスキルはかなり業界一般的でしょう。それにもかかわらず、2社がともに「現時点では業務の知識などは不問」と言っているというのは興味深いものがあります。これは大学教育の不備というよりは、OJTでなければ能力は身につかない、という企業の考えを示しているのでしょう。切った張ったの株取引の専門能力は、しょせんは机上のシミュレーションでは身につかない、やはり実際に切った張ったの世界で自分でやってみないと修得できない、ということなのではないでしょうか。
「やってみなはれ」。やってみて学ぶ、失敗しても得るものは多い。サントリーが毎年就職人気の上位にあがるのもわかるような気がします。