今年の5冊あらため今年の10冊

年末ということで、あちこちのブログで「今年のベスト○冊」といったエントリがアップされているようです。私はこうした人たちほどの読書家ではありませんが、それでもそこそこの数の本を読んでいますので、私も諸賢のまねをしてみましょう。
別に確たる視点をもって評価しているわけではまったくなく、単に強い印象が残った本、ということです。今年読んだ本ということなので、必ずしも今年出た本には限っていません。何冊もあげることはできませんので、5冊にしておきます。順位があるわけでもありません。記載は50音順です。

  • 当初5冊だったのですが、別格と番外を1冊ずつあげて事実上7冊になっていたため、「だったらもう3冊あげて10冊にしては?」とのご提案がありました。それもそうかなと思って3冊追加してみました。とはいえ依然として順位があるわけではなく、記載は著者50音順です。


日本の不平等

日本の不平等

ご想像のとおり、最初「別格」ということにしたのはこれです。あちこちでいろいろ書いている(書評も2回書いた)ので、ここでは特にコメントしません。


労働市場の経済学―働き方の未来を考えるために

労働市場の経済学―働き方の未来を考えるために

昨年末に出た本ですが読んだのは今年ということで。基本的に公開統計の分析によって近年のわが国労働市場の状況を解説した本で、一種の教科書でしょうが、ビジネスマン向けの読み物としても興味深い本です。淡々と、さらさらと多くの俗説を切り捨てて、本質を示していくのがまことに痛快です。


人材育成論入門 (キャリアデザイン選書)

人材育成論入門 (キャリアデザイン選書)

去年の秋に出た本ですが、今年の年央に連載で取り上げましたので。その際にも書きましたが、入門書ではありますが読み物としてもなかなか面白い本です。


14歳からの仕事道 (よりみちパン!セ)

14歳からの仕事道 (よりみちパン!セ)

今年も大活躍した著者ですが、中ではこれをあげましょう。論より実行。「韓流好きのリフレ派」先生の批判はごもっともで、とりわけ循環要因の影響についての指摘は私も同感ですが、それは承知の上での本ではないかと思います。なお、「行政に丸投げ」批判も経済学者としては当然でしょうが、しかし「丸投げ」できる状況ができたのは著者の功績が非常に大きいことも事実でしょう。


今年出た新訳。難解で鳴る作品ですが、たいへん読みやすくなっていて、そんじょそこらの心理スリラーとは違う(というほど心理スリラーを読んでいるわけではないのですが)、底冷えのする読感があります。私がこれを読むのは当然ベンジャミン・ブリテンのすばらしい歌劇の原作だからですが、歌劇ではクウィントもミス・ジェスルも歌いますから亡霊の存在は疑いようもないわけですが(しかし演出によるだろうか?)、原作だと亡霊たちの主張は非常に抑制的で、解説にあるようなさまざまな解釈ができるということもよくわかります。


<育てる経営>の戦略 (講談社選書メチエ)

<育てる経営>の戦略 (講談社選書メチエ)

これはとにかく、最後のほうで「例解」として掲載されている、日亜化学事件の控訴審に著者が提出した意見書が圧巻。少し硬くて読みにくいのですが、地裁判決を入念かつ徹底的に批判し、その誤りを余すところなく論じ尽くしていくのには圧倒的な迫力があります。もちろん、それ以外の部分もいいのですが。


これは他言を要しないでしょう。世界的な新自由主義−著者のいう「市場個人主義」−への流れのなかで、「資本主義の多様性」を維持するために、わが国の役割は大きいはずです。とりあえず、雇用・労働について米国型を礼賛しているのは、政治的影響力の大きな人では今のところ竹中平蔵氏と宮内義彦氏くらいのもので、民間企業でもこの秋に出たジャコービィの『日本の人事部・アメリカの人事部』にあるように、日本企業の人事管理は米国に較べてまだまだ「新自由主義的」ではないわけですから、日本が多様な資本主義の一つのスタイルを示す可能性は十分なように思います。


疑惑の霧 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

疑惑の霧 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

これも去年の本ですが、長らくポケミスで入手困難になっていたものの復刊。「はなれわざ」や「自宅にて逝去」とならぶ著者の代表作であり、古今の名作の一つと思います。あまり書くとネタバレになりますが、ラストの鮮やかさに関しては私は世界一と思っています。新訳ではない(新訳熱望)のでしばらく放置していたのですが、今年ヒマつぶしに再読して改めて感心しました。というわけでヒマつぶし本の「今年の一冊」です。


三好碩也(1988)『ヤコブとてんのはしご』至光社
http://www.bk1.co.jp/product/775146
これが当初番外であげた本。かなり前の本ですが、今年読んだ本ということで入れました。ISBNコードがついていないので「はまぞう」でリンクを入れられないのですが、幼児向けの宗教教育絵本で、知人から上のムスメにもらったたくさんの絵本の中に入っていました。

おんなじだったら ひとりで いいもんね
ちがっているから いろんなこと できる

かみさま かみさま
ちがっているから みんな ちがっているから
ちがいを わかってあげなきゃ いけないんですね

まさにダイバーシティの本質。読み聞かせている親のほうが感動して涙声になってしましました。


希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

1年前、今年の正月休みに読んだ本です。言いたくない、言いにくいけれど言わなければいけないことをきちんと言うことも大切だと思います。だからこそ内閣府の「日本21世紀ビジョン」の検討にも大きな影響を与えたのでしょう。