国家公務員給与の謎

といっても、金額が高いとかいう話ではなく、支給方法についてです。
政府は、e-Japan計画の一環として、国家公務員の給与全額を銀行等への振込とする、という効率化の取り組みを進めていますが、一昨日、そのフォローアップ調査の結果が人事院から発表されていました。全府省庁、特定独立行政法人及び日本郵政公社の常勤の国家公務員を対象にこの3〜4月に調査を実施した結果、府省庁全体で597,005人の国家公務員中546,212人がすでに全額振込としており、実施率は91.5%、独立行政法人全体では71,052人中69,644人で98.0%、日本郵政公社は258,494人中256,935人で99.3%とか。なるほど郵政公社の職員は郵便貯金口座への振込にしているのでしょうね。人事院はこれを「順調な進捗状況」と自画自賛していますが、民間の感覚からすればいまどき国家公務員の給与をキャッシュで支給しているほうが驚きではあります。もっとも、2003年6月の調査では中央省庁で47.2%だった(2003年7月1日付日経新聞朝刊による)のだそうですから、大幅に改善していることも事実で、人事院はじめ関係者の努力は評価されてしかるべきなのでしょう。


内訳をみると、ほとんどの省庁等が100%かそれに近い数字になっているのですが、ときどき妙に低いところがあります。たとえば厚生労働省社会保険庁は70%台にとどまっていますし、農林水産省林野庁水産庁はそれぞれ50%台、30%台、20%台です。林野庁水産庁は労組が反対しているのかなとも思いましたが(一応「効率化」ですから反対の労組もあるでしょう)、ざっとみたかぎりでは全林野などが反対しているという形跡はなさそうです。
で、「各府省庁における官署ごとの調査結果は、各府省庁のホームページに掲載。」となっていて、「各府省庁のホームページへのアップは、平成17年7月12日(火)午前0時」とのことでしたので、昨日みてみたところ、厚生労働省はアップされていましたが、農水省はきょうになっても人事院の資料に記載のURLは「404 Not Found」ですし、サイト内を検索してみても見当たらないようです。どうなってんじゃい。
そこで厚労省社会保険庁の内訳をみると、霞ヶ関の本省・本庁は3,269人中3,264人で99.8%と、さすが?の成績です。キャッシュで受け取っている5人の顔をみてみたいもんだ。
ところが、本省以外となるとかなりのバラツキがあり、100%もかなりある一方、0%というのもちらほら目につきます。しかし、組織や地域による傾向はあまりみられません。もともとのe-Japan計画でも「山間・僻地等全額振込化が困難な地域を除き、各行政機関において原則として100%の実施を目指す」と、地域的な困難には配慮が示されていましたが、たとえば大阪府吹田市で1,000人近い(983人)職員を擁する国立循環器病センターが0%というのは地域的な困難では説明できないでしょうし、山間部などにあると思われる国立療養所で100%という例もあります。
都道府県の「出先」をみると、ブロックの厚生局は関東信越を除いて100%を達成しています。都道府県の労働局と社会保険事務局はどうかというと、九州の成績がすばらしく、福岡労働局の99.3%のほかは全労働局・社会保険事務局が100%で、九州厚生局も同沖縄分室も100%です。九州が特段山間地や僻地が少ないということはないでしょう。労働局は比較的良好で、福島の0%と広島の0.2%を除けば概ね高率を達成していますが、社会保険庁は15府県で0%と遅れが目立ちます。東京が100%で神奈川が0%、京都が0%で大阪が100%といった理解に苦しむコントラストもみられます。
それにしても、給与をキャッシュでもらうより銀行振込してもらったほうが便利という人はそれなりにいるでしょう(私もそうです)。国家公務員の場合は単一の口座に全額を振り込むということのようなので、家計費と「小遣」、貯蓄などを別口座で管理したい人には若干使い勝手が悪いことは間違いないでしょうが、それでも単身者などには全額単一口座振込でいいという人もいるでしょうから、数百人の組織で0%というのは常識的には考えにくいように思います。しかし、組織として「やらない」と決めるというのもちょっとありそうもない話です。考えられるのは労組の抵抗ですが、労組が反対するなら非組合員の管理職は協力しそうなものです。
このあたり、ご存知の方に教えてほしいものですが、私が思いつくのは結局のところ、各機関の担当部署・担当者の「やる気」の違い、ということしかありません。厚労省の場合、九州ブロックの担当者がやる気のある有能な人だったということではないでしょうか。逆に、まったくやる気のない人であれば、全額振込化の推進そのものを組織内に周知、展開していない、したがって組織のメンバーもそういうこと自体を知らない、知らないから誰も変えず、結局0%、ということも起きるのかもしれません。周知、展開しないというのは要するに「仕事をしていない」わけで、それで給料がキャッシュで(笑)もらえているというのはなにより理解に苦しみますが。
 うーん、しかし小さいながらも新聞報道もされていますし、「誰も知らない」というのはやはりちょっとあり得ないような気もします。役所は人がかわりますから、そう立て続けにやる気のない担当者がくるということもないでしょうし。過去にも何度か調査はされているようですから、何度やってもゼロのままで平気だというのも理解に苦しみます。やはり、謎です。
ちなみに、昨年10月4日付日本経済新聞朝刊の記事によれば、袋詰など現金支給のコストは年間1億4千億円にのぼるとか。多いとみるか少ないとみるかは見る人の見方によっていろいろでしょうが、多くの民間企業では許されないコストであることは間違いないものと思います。