愛・地球博 食事編その3

万博の食事、といえばなんといっても世間を騒がせた?「弁当持込問題」です。とりあえず地元・中日新聞の記事で概況をみてみましょう。
http://www.chunichi.co.jp/expo/news/20050318_011.html
で、ネット上をみれば、あるわあるわ、ブログを中心に主催者を非難する主張が山のように(大げさか)。で、その内容をみると、大半は中日新聞の記事にもある「来場者より出店業者の利益を優先している」というものです。大雑把に言えば、「食中毒対策、テロ対策という説明はウソであり、本当の理由は会場内の『高い』(=利益が不当に大きい)食事を売って業者を儲けさせるため」という論法でしょうか。とにかくたくさんあるのですが、一例として毎日新聞論説委員の磯野彰彦氏のブログを紹介しておきましょう。
http://www.maing.co.jp/maimai/isono/archives/2005/03/post_28.html
で、多くの場合は、その状況証拠として「会場内の食事は『とんでもなく高くてボッタクリ』」という「事実」が上げられています(ちなみに、もうひとつよく見かける状況証拠が「弁当やペットボトルの持ち込み禁止は食中毒・テロ対策にはならない」という理屈です)。で、いかに高いか、ということを訴求したいあまり、「600円の蒸しパン」「1,000円のポップコーン」「1,000円のフランスパン」などがその言葉だけで取り上げられ、リンクやトラックバックなどによって事実の確認がないままに「とにかく高い」ということで広まっていったということのようです。中には、義憤にかられるあまり(笑)、「談話室滝沢」のサンプルの写真を使って「コーヒー1,000円」なんてニセ情報をでっち上げる人まで現れたのだとか。
たいへん不思議なことに、こういう「業者を儲けさせるためだ」という理屈が出てくると、「そうに違いない」と思い込んでしまう人が多いのですね。ただ、新聞報道をざっとみたかぎりだと、中日の記事や毎日磯野氏のブログにあるように、一般市民の意見として紹介はされていますが、新聞社自身の意見として「そうだ」とは書いていないようです。


これはもちろん、明らかな証拠がないから迂闊なことは書けない、ということかもしれませんが、自然に考えてみると、「業者を儲けさせるために弁当の持ち込みを制限する」という発想自体がずいぶん無理があるのではないかとも思います。
実際、私自身も最初にそういう意見を聞いたときに「まさかね」と思いました。単純な話で、主催者はなにより入場者を増やそうと思っているはずであり、であれば、入場者増にはマイナスになることが明らかな「弁当持ち込み禁止」を好んでやるとは思えないからです。そもそも、来場者の食事の確保には主催者はかなり苦心し、現状でも供給能力にあまり余裕がない状態なのですから、食事の確保につながる弁当の持ち込みを制約してまで場内での販売を増やそうというのも本末転倒です。
もちろん、収支改善のために事業収入を増やしたいというのは主催者としては当然でしょう。しかし、平成17年3月25日付朝日新聞朝刊によれば、

 協会は当初、1人あたりの飲食を900円、土産物などを600円と見込み、子どもを含めた来場者が会場内で使うお金を、入場料などを含めて1人4600円と見積もった。TDLやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を大きく下回る。
 ところが、クレジットカード最大手のJCBによると、内覧会中の1人あたりのカード利用額は7400円で、同社の予想を上回った。「土産物のまとめ買いも多く、協会の予想を大幅に上回るのは確実」と分析する。
 売り上げのうち、飲食は2〜6%、グッズは10%程度が「上納金」として万博協会の収入になる。協会はこれらを入場料とあわせて会場内の警備費用などにあてる。
(平成17年3月25日付朝日新聞朝刊から)

ということだそうです。この記事自体は、全文を読むと「売り上げが多いのは弁当の持ち込みを禁止したからだ」という書きぶりになっていますが、しかし、もともと1人あたりの飲食を900円と控えめ(食事だけではなく飲み物も含めての金額ですから、控えめだと思うのですが)に見積もっていたのに加え、主催者に入るのは増加分の2〜6%にとどまるというのですから、弁当の持ち込みを禁止してまで事業収入を増やそうとするほどの規模でもないように思われます。というか、そもそもこの控え目な見積もり自体、「弁当の持ち込みを禁止してボッタクリの食事を売りつけて荒稼ぎしてやろう」という意図を感じさせないと思うのですが(しかも、土産物の600円というのもずいぶん控えめなような)。
そもそも、「金儲けのための弁当禁止」説を主張する人は、禁止しなければ全員弁当を持ってくるかのように考えているのではないかというフシがあるのですが、もちろんそんなことはありません。2割くらいが弁当持参という報道もあるようですが、私が現地に行った際には「手作り弁当」を食べている人は数組しかみかけず、「エキスポ広場」もだいたい近辺のテイクアウトショップで買ったものを食べている人が大半でした。もっとも、弁当持参の人はもっと目立たない休憩スペースで広げていたのかもしれません。
むしろありそうなのは外国館に対する配慮で、こちらは主催者が頭を下げて出展してもらったものも多いはずなので、レストランの「入り」にも当然神経を使うでしょうし、実際PRも熱心に行われているようです。主催者はコンビニ弁当については1日3,000〜4,500食の上限規制をしているそうですが、これは外国館に対して配慮の姿勢を見せているという意味があるのでしょう。

  • なお、批判が噴出してからも首相の意向があるまで解禁しようとしなかったことを「業者の利益を優先した」といって批判する向きもあるようですが、さすがにこれは筋違いでしょう。業者は「弁当持ち込み禁止」を前提に売り上げなどを見積もって出店しているわけですから、その前提を簡単にくつがえすことはできないのは当然です。

というわけで、どうも「業者に儲けさせるための弁当持ち込み禁止」というのは、多くの人々の義憤にもかかわらず、事実とは異なる俗説であるような気がします。
むしろ、「食中毒の防止」という主催者の説明のほうが、万一食中毒が発生した場合に原因を特定できるようにしておくことで責任問題を回避しようといういかにも役人的な発想が出ていて、良し悪しはともかくとして私には「ああ、そうだろうな」と思えるものです。役人の総大将たる首相の一言で方針が変わるというのも役人的ですし。まあ、私も多くのみなさんと同じように、食中毒なんて自己責任と割り切って弁当の持ち込みを認めればいいじゃないかという気はしますが、現実に起きれば主催者が「自己責任」ではすまない可能性は高いですし、起きた後の救護体制で主催者が追及される危険性もありますから、当事者としてはそれほど簡単ではないのでしょう。
どうして私たちは、こういう「弁当持ち込み禁止でボッタクリで大儲け、儲けたカネで業者から主催者に裏金」というような「陰謀説」がこうも好きなのでしょう。こういう話を聞くと、「絶対そうに違いない」と義憤にかられる人がいかに多いことか。そして、「悪いことが行われているに決まっている」ということで、誇張された情報や間違った情報をなんの疑問もなく広めてしまう。そうして現実とまったく異なる幻想が作り出されてしまう、というわけです。
今回の万博の「思い出すのは、…とんでもなく飲食物が高かったことばかり」というのも、そうして作られた幻想以外のなにものでもないと思います。これは現地に行ってみればすぐにわかることです。実際、弁当騒ぎが収まった4月中旬頃?以降に現地に行った人で、「とんでもなく高い」電波を飛ばす人はほとんどいないのではないかと思います。
ときに、小泉首相は弁当解禁に指導力を発揮した?ことが好評だったことに気をよくしてか?夏場に向けて今度はペットボトル類の解禁も指示しようかと考えているとかいないとか。ペットボトルは野球場などでも持ち込みを禁止していますが、さてどうなりますことやら・・・万博会場にはペットボトルや缶飲料やラジカセ(謎)を投げつける阪神ファンはいないでしょうが(いや、阪神ファンはいるでしょうが、阪神ファンは万博会場ではモノを投げないでしょう)・・・。