厚労省、天下りポスト公募に 公益法人などに要請へ

 厚生労働省は同省OBを5代以上続けて役員に受け入れている14の所管法人について、該当する役員ポストを公募制にするよう各法人に要請する方針だ。政府は任期が切れた独立行政法人の役員ポストを公募制に移行している。厚労省独立行政法人以外の公益法人などにも同様の対応をとる。
 介護労働安定センターや児童育成協会などの公益法人のほか、社会保険診療報酬支払基金中央職業能力開発協会といった特別民間法人が対象。同省OBを5代以上受け入れていても、2010年度予算案で補助金を全廃した法人は公募対象から外した。各法人を所管する部局長を通じて近く要請する。
 理事長や理事、監事などのポストに就いているOBの任期が切れる際に後任を広く募り、外部有識者による選考委員会が候補者を選ぶ。公務員OBの応募も認める。選任にあたっては行政経験や専門知識よりも、法人の経営改革に手腕を発揮できるかという観点に立って候補者の潜在力に着目するよう求める。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100216ATFS1501V15022010.html

しかし、これら法人がこれからも存続する可能性はどの程度なんでしょうかね?中央職業能力開発協会などは、しょっちゅう「ムダづかい」のやり玉に挙がっているような印象があるのですが…。それこそ「事業仕分け」だのなんだのでこの法人は廃止、なんてことになるリスクは無視できないわけで、となるとそんな泥船にわざわざ乗り込んでくる有能な人がいるわけもなく…。

公務員法改正案、「次官」「部長級」同格に

 政府は15日、今国会に提出する予定の国家公務員法改正案について「事務次官と局長」「部長級」の2つに分けていた幹部人事を一本化するよう修正することを決めた。次官から部長級への異動は特例の「降格」ではなく通常の「転任」として処理できるようにする。国家公務員給与法の見直しは先送りするため「転任」扱いでも給与は大幅に減ることになり、運用は困難との見方もある。
 鳩山由紀夫首相は15日、修正案について「降格ということではない。自由度を高めるということだ」と強調した。首相官邸で記者団に語った。19日にも修正案を閣議決定する方針だ。
 従来の改正案では、省庁横断で2つの幹部候補者名簿を作成し、降格人事は原則としてそれぞれの名簿の枠内にとどめる方針だった。次官や局長から部長級への降格は特例扱いで「勤務実績が劣っている」などの条件を満たす必要があった。
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20100216ATFS1503B15022010.html

これは結局、「政治主導」ということで政治任用をやりたいということなんですよね?まあ、実際にはそうはやらないにしても、やれるようにすることで高級官僚をコントロールしようと。
であれば、「転任」で給与が(それも大幅に)ダウンするというのは、人事管理的にはやはりなじまないものを感じます。もちろん、純粋職務給であればそれが当然というのもひとつの考え方ではありますが、政治的意図だけで大幅給与ダウンをともなう転任を行うことは通常の人事権を逸脱しているという議論もありそうです。本気でやるなら、職能資格制度を導入して賃金と職位を分離するか、転任の行われる範囲に関しては職位にともなう賃金は同一にする(別の部分は違っていてもかまわない)などの対応が必要でしょう。

景気の波とらえ改革推進

「経済教室」に脇田成首都大学東京教授が登場して、「景気の波とらえ改革推進」という論考をよせておられます。「洗面器のカニ」という表現はおもしろいのですが、内容はというと私のような素人には理解できないことばかりで…。
「ポイント」の第一に「日本経済、不良債権処理で3%成長も可能」となっています。これをみれば、大半の人は「不良債権処理を進めてビジネス環境を改善させれば成長率も高まる」という意味で解釈するでしょう。ところが、脇田氏が言っているのは「不良債権処理をせずに企業の利益を設備投資や人件費に振り向ければ成長率が上がる」ということのようです。それでは不良債権はどうするのか、ということへのご説明は一切ありません。政府が徳政令を出してすべて救済するということかもしれませんが(まさかとは思いますが)、それで3%の成長が実現したら奇跡…いや、急激なインフレで名目では達成するかもしれませんが…。
「ポイント」の第二は「次の4〜5年に1回の好況期を見逃すな」なのですが、それでは「景気の波をとらえ」てどのような「改革」を「推進」するのかというと………あれ?どんな改革を推進するんだろう?
とりあえず「少子高齢化が進む日本で、社会保障改革を中心にやらなければいけないことが多いのは事実だ」という記載はあります…しかし、それだけです。好況期のほうが不況期より「改革」を進めやすいということは同感ですしよくわかりますが、それだけ?
そこで「ポイント」の第三として「賃金上昇なしに持続的成長は達成されず」の登場となるわけです。脇田氏の主張も結局は「今は不況だから仕方ないけれど、景気が良くなったら賃金を上げましょう」ということに尽きているようです。まあ、これは鶏と卵という感もあり、賃金上昇なくして持続的成長なし、というのも一面の真理でしょうし、持続的成長なくして賃金上昇なし、というのもまた一面の真理なのだろうと思います。
そこで脇田氏は前回の「小泉改革後の好況」で企業の利益が(不良債権処理と)投資に振り向けられ、賃金が上がらなかったことが失敗であり、今回の不況の傷口を深くしたと主張するわけですが、そうなのでしょうか。
まあ、結果論ですから一理あるのは当然なのですが、それにしても前回好況期においても完全失業率は4%台で、多くの企業では時間外労働による調整(これは残業増なので賃金は増える)と、非正規労働の正社員転換(これも基本的には賃金が増える方向)で対応可能で、新規採用が目立って増加するまでの人手不足状況ではありませんでした。つまり、とりあえず需給要因で賃上げ(ベースアップ)が行われるような状況にはなかったということができるでしょう。前回の好況が脇田氏の言うような「絶好球」であったかどうかははなはだ疑問です。
もちろん、たいして利益の上がらない投資に資金をつかうくらいなら賃金を上げたほうがまだマシだというのももっともな考え方で、賃金は需給関係以外の要因、たとえば労使交渉などによっても賃金は上がり得るわけなので、上げておいたほうがよかった、という考え方もあるかもしれません。ただ、この当時の企業の投資の相当部分は海外で行われ、したがって労働組合としても雇用確保の観点から海外との賃金水準の比較にも留意せざるを得ない状況だったことは重要なポイントではないかと思われます。極端な話、日本で海外投資が行われず、賃上げが行われていたとしてもリーマン・ショックは起きたのであり、その後の不況も避けられなかったわけで、となると設備投資が少なかった分は打撃は小さかったかもしれませんが、賃金が高くなっていた分は雇用調整がさらに厳しかっただろうことも見やすい理屈で、はたしてトータルするとどちらがマシだったのかはわかりません。
いずれにしても、「環境が整った企業から(同一労働同一賃金などというつまらないことを言わずに)確実に賃上げを実施する」ことが重要だというのは脇田氏の主張するとおりです。ただ、政策として重要なのは「環境が整った」という状況を実現することのほうでしょう。前回以上に本格的な景気回復を実現し、時間外労働や非正規労働の正社員登用などでは不十分で、新規採用が増加し失業率が3%くらいにまで下がれば、誰に言われなくても企業は賃金を上げるはずです。そのプロセスを飛ばして「はやく賃上げができるようになればいいなあ」というのは、まあ全国民の願いではあるでしょうが、わざわざ新聞紙上で書くほどのことでもないでしょう。