違和感

日曜日の日経読書欄の連載コラム「今を読み解く」で、同志社大学教授の太田肇氏が就職活動を取り上げておられるのですが、どうも違和感が…。紹介されている本をすべて読んだわけではないので、私に誤解があるのかも知れませんが。
たとえばこんな文言があるのですが、

 多くの学生は、世間に名が知られた会社か否か、セミナーでの印象がよかったかどうかという程度で企業を選択しているし、企業側もエントリーシートやたかだか数回の面接で採否を決めるのが実態だ。学生にとっても企業にとっても、情報不足によるリスクは計り知れない。
(平成22年3月7日付日本経済新聞朝刊から)

「多くの学生」って何人ですか?「世間に名が知られた会社か否か、セミナーでの印象がよかったかどうかという程度で企業を選択している」学生が多数派であるとは私にはどうしても思えないのですが…。まあ、太田氏が指導した学生の多くがそうだというのであれば、それはその限りではそうなんでしょうねと言わざるを得ませんが。というか、この人は大学の教員なのに、学生に向かって「おまえは世間に名が知られた会社か否か、セミナーでの印象がよかったかどうかという程度で企業を選択している」って言ったら言われたほうがどう感じるかとか考えたりしないんでしょうかね?(案外、現実に学生と接するときには気配りの行き届いたいい先生なのかもしれませんが…)
「企業側もエントリーシートやたかだか数回の面接で採否を決めるのが実態だ。」というのはだいたいそのとおりでしょうが、さてそれが「計り知れない」というほどに「情報不足によるリスク」が大きいかというとその証拠はないわけで。実際、数回の面接で得られる情報はかなりのものがあり、少なくとも採否の判断において負担できないほどのリスクをともなうような情報不足ということはないはずです。もちろん失敗は常にあり、大失敗も稀にはありますが、しかしそれはゼロに近づけようとすればするほど必要な情報量も増大していくわけで、現に数回の面接で十分だと企業が判断しているのであれば、それで十分なのだろうと受け止めていただくしかないのではないかと思います。

ところで就活を労働市場における一現象としてとらえた場合、その特殊性にも言及しないわけにはいかない。終身雇用が崩れ、雇用が流動化したといわれながら、今なお就活は外部労働市場が働く唯一の機会としてとらえられているからだ。

就活は外部労働市場が働く唯一の機会
キョロ (・.・ )( ・.・) キョロ
就活は外部労働市場が働く唯一の機会
( ゚д゚)ポカーン
就活は外部労働市場が働く唯一の機会
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
就活は外部労働市場が働く唯一の機会
・・・・・・だったら、なんでリクルートパソナは商売成り立ってるんですか。

学業と仕事の境界はいずれ不明確になっていくはずだ。就職がキャリア形成の一コマに過ぎなくなると、無理に装った就活は無意味だし、企業側もまた採活の時だけ厚化粧するわけにはいかない。就活、採活が素顔で行われるのはいつの日か。

なに気取ってるんだか。そんな日絶対に来ませんよ。受験生が過去問を解いて傾向と対策を吟味するのと同じこと、有利なマッチングをめざして自らを飾ることは自然なことですし、悪いことでもないでしょう。むしろ転職のほうがその傾向は甚だしいのが実情かもしれません。


(3月12日追記)村上龍メールマガジンJMM」の3月10日号で配信された「国際税務専門職、ニューヨーク、マンハッタン在住」の肥和野佳子氏の『NEW YORK, 喧噪と静寂』第14回「米国の就職活動」で、おそらくは「就職がキャリア形成の一コマに過ぎなく」なっている国の代表であろう米国における就職活動の実情が紹介されていましたので、備忘的に転記しておきます。いまはまだありませんが、いずれhttp://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/title27_1.htmlに「第14回」として掲載されるでしょう。

 米国では、新卒というのは企業にとっては「経験のない人」イコール「即戦力ではない人」ということなので、実はあまり積極的にはとりたくない人材なのだ。積極的にとりたいのは即戦力になる人。だいたい長くて7年、若い人は2年くらいで転職するのが普通なので、長い目で育てるという感覚ではない。今必要な人を今採るという感じだ。
 したがって新卒は履歴書を書くときに自分がいままでどんな仕事をした経験があるか、夏休みのインターンシップのことや、学期中のアルバイトのことなど、少しでも企業に興味を持ってもらえるように必死で書く。大学1年、2年の夏休みのアルバイトもある意味では履歴書の見栄えを良くするためにするようなものだ。

これはまさに「無理に装った就活」でしょうねぇ。考えてもみれば、経験やスキルのある人たちに交じってそれらのない若者が就活をするわけですから、それなりのお化粧をするニーズはむしろ高いのでしょう。