感情労働

たまには「天声人語」なんてどうでしょう。

…ある薬局の薬剤師は客に処方する際、話し方が気に食わないと怒鳴られた。心ならずわびつつ、口まで出かかる「何様ですか」をのみ込むことが、最近は増えているそうだ。「会社万葉集」(光文社)にあった切ない歌を思い出した。〈わたくしの正しき事は主張せず客の激しき言葉に耐へゐる 山口英子〉▼「感情労働」という言葉を、最近、耳にすることがある。自分の感情をひたすら押し殺して、相手に合わせた態度と言葉で対応する。きびしい自制心を求められる仕事のことだ。「肉体労働」「頭脳労働」に並ぶ言葉らしい▼かつては旅客機の客室乗務員が典型とされていた。だがここにきて、看護や介護を含むサービス業全般に、その要素が広まってきた。身勝手がはびこり、多くの人が「堪忍袋」の酷使を強いられている▼スーパーのレジに1日立てば「いま」が見えますよ。そんな便りも届いた。しかし、客として理不尽を言う人が、仕事では客に理不尽を言われる立場にいることもあろう。そしてまた、その客も……。弱い立場の者をストレスのはけ口にする、やるせない「堂々巡り」が透けて見える▼…
(平成19年6月12日付朝日新聞朝刊「天声人語」から)

「弱い立場の者をストレスのはけ口にする」という感情論よりは、日本企業の「お客様は神様です」意識が徹底しすぎて、サービス水準が高くなったことの帰結だととらえたほうがいいと思うのですが。海外に行くと、いかに日本のサービス、ホスピタリティ水準が高いのかよくわかりますよね。
で、これはなにも接客だけに限らず、コンビニの24時間営業とか、書籍の即日配送とか、サービス水準が高い影にはそれに従事する人の苦労があるわけで。
実際、サービス過剰が全体としての生産性を落としている可能性は否定できず、そこのところを考え直してみる必要はあるのかもしれません。