経団連、賃上げを促す?

今朝の日経新聞の1面トップに出ていて、ちょっとびっくり。

 日本経団連は2006年の春季労使交渉で好業績企業に賃上げなど労働条件の改定を促す労使交渉指針を固めた。デフレ脱却が視野に入り、企業業績が上向く中で、バブル崩壊後の一九九三年以来続けてきた一律的な賃金抑制姿勢を転換する。従業員の労働意欲を高め、優秀な人材をつなぎ留めるにはベースアップ(ベア)を含めた賃上げが必要との考え方が大手企業を中心に広まってきたことを映している
 経団連はこの方針を盛り込んだ経営側の指針、「経営労働政策委員会報告」を13日に発表する。同報告は現在の経営環境について、「経済環境に好転の兆しが見える現在、企業にとっては本格的に『攻めの経営改革』に乗り出す環境が整いつつあり、競争力を高めていく好機にある」と位置づけた。
 その上で「労使の一層の協力が不可欠で、賃金などの労働条件の改定についても、企業の競争力を損ねずに働く人の意欲を高める適切なかじ取りが望まれる」との姿勢を打ち出した。「賃上げ」という直接的な表現は避けたが、好業績の大手を中心にベアを含めた賃上げや、実績を上げた社員に高給で報いる成果主義型賃金の充実を実質的に促す内容という。
(平成17年12月3日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、経済環境が昨年よりさらに好転しているということは事実でしょうから、当然ながらそういう状況は踏まえての書きぶりになっているということなのでしょうが・・・「『賃上げ』という直接的な表現は避けた」というのは・・・あれ?


なんかおかしいぞ・・・とひっかかるものを感じたので、今年の春季労使交渉の「2005年版経営労働政策委員会報告」を引っ張り出してみたら・・・やっぱりそうでした。
まず序文をみると、

…賃金についても、個別企業において各労使の責任のもとで水準を引き上げることは、それぞれの判断において自由であることは当然である。
経団連『2005年版経営労働政策委員会報告』から)

と、「水準を引き上げる」と明言していますし、本文のほうでも、

…個別企業レベルにおいては、大幅な生産性の向上や人材の確保などのために賃金の引き上げが行なわれる場合があろうし、逆にやむを得ず、賃金引き下げに迫られる事態も生じうるが、今後、これらは「賃金改定」と称すべきと考える。
(上と同じ)

と「賃金の引き上げ」が明記されています。ということは、「『賃上げ』という直接的な表現は避けた」というのは、昨年に較べれば明らかに姿勢は後退しているといえないでしょうか。
まあ、2006年版はまだ公表されていないようなので、他の部分をみてみないとはっきりとはいえませんし、常識的に考えて昨年より経済環境も労働市場も改善していますから、昨年より厳しくなるというのもちょっと考えにくいものがありますが・・・だからこそ厳しく書いている、というのを割り引いて評価した記事なのかもしれませんが・・・しかし、いささか誘導的意図を感じる記事ではあるようです。