備忘録

古代ローマ帝国少子化・人口減少によって衰退した、という話は、塩野七生さんや堺屋太一さんなどが広めたのだと思いますが、かなり有名になっていると思います。ところが、東大教授で経済財政諮問会議でも活躍する経済学者、吉川洋氏の論文によれば、ギリシアでも同様であったという研究があるのだそうです。私は初めて知りました。
掲載誌を捨ててしまう前に、備忘録としてここで書いておきます。

 人口の減少について考えるとき私がいつも思い出す文章を引用し本稿の結びとすることにしたい。西洋古代史の村川堅太郎教授に「ギリシアの衰頽について」という論文がある(『村川堅太郎古代史論集1(1はローマ数字)』、1986年、岩波書店所収)。衰退、滅亡というとローマ帝国が有名であるが、この論文は古代ギリシア都市国家ポリスの衰退について諸説を検討した論文である。そこには紀元前2世紀半ばに生きたポリビオスが当時のギリシアについて書き残した文章が引かれている(前掲『論集1』181頁)。少し長いがここに引用させて戴く。
 「現在では全ヘラス(ギリシア)にわたって子供のない者が多く、また総じて人口減少がみられる。そのため都市は荒廃し、土地の生産も減退した。しかもわれわれの間で長期の戦争や疫病があったというわけでもないのである・・・・・・人口減少のわけは人間が見栄を張り、貪欲と怠慢に陥った結果、結婚を欲せず、結婚しても生れた子供を育てようとせず、子供を裕福にして残し、また放縦に育てるために、一般にせいぜい一人か二人きり育てぬことにあり、この弊害は知らぬ間に増大したのである。」
 歴史は繰り返す、ということか。


吉川洋(2005)「人口の減少と経済成長」学士会会報851号(2005年2号)から

少子化古代ローマギリシアの衰退の主たる原因であったかはともかくとして(一因ではあったのでしょう)、それなりに「豊かになった」社会においては少子化が起きるというのは今も昔も同じということでしょうか。まあ、「貪欲と怠慢に陥」ることが許される社会というのは、それが許される人にとってはまことに豊かでいい社会だということだろうと思うのですが。