通災と労災

くだらないツッコミネタなのですが、今日の朝日新聞朝刊は、岐阜地裁が「単身赴任者が日曜日の夕方に家族のいる自宅から単身赴任先の社宅への移動中に発生した交通事故による死亡について、通勤災害と認める」との判決を出したことを大きく報じていました。
単身赴任の通災については、古くは「金帰月来行為」(金曜の夜と月曜の朝、家族のいる自宅と勤務先とを移動すること。普通は国会議員が週末に地元に戻ることを「金帰月来」というわけですが、労働用語としては通災との関係で使われます)中の災害が通災にあたるかどうかがという議論がありましたが、これは現在では基本的に通災にあたるとされており、今回の判決はそれをさらに拡大したことになります。すでに、今国会に赴任元と単身赴任先の住居間の移動中の災害も通災とするという労災保険法改正法案が提出されていますから、これを先取りした判決といえましょう。
で、今日書きたかったのはこの判決ではなく、朝日新聞の見出しです。「家から社宅も「通勤」 岐阜地裁 死亡事故は労災」と大きく書いていますが、厳密にいえば通災は労災とはいえないでしょう。
労働者災害補償保険法」を労災保険法と略し、「労災病院」などと使いますので、まぎらわしいことはまぎらわしく、「労災保険法が適用されるのだから労災だ」という理屈もあるかもしれませんが、労災保険法には「労災」の定義はありません(業務災害と通勤災害があるだけ)。ちなみに、労災保険法の根拠になっている労働基準法にも「労災」の定義はありません。
労災の定義があるのは安衛法で、同法2条1項で「労働災害」を「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。」と定義しています(労働災害を「労災」と略した例は厚生労働省の文書などにも多々みられます)。これはおおむね労災保険法の「業務災害」に該当し、また、労働基準法が災害補償の対象として想定しているものともおおむね一致します。そして、通勤災害がこれに該当しないことも明らかでしょう。
いずれにしても、わざわざ「労災」などと書かず、「通災」としておけばなんの問題もなかったわけで、そうしなかったのは「通災も労災」との思い込みがあったのでしょうか。「労災」という語のほうが目を引くということもあったかもしれません。

  • もちろん、通災が使用者の責任でないことは言うまでもありません。したがって、労災保険法でも、業務災害への給付は労働基準法の「災害補償」をふまえて「療養補償給付」「遺族補償給付」などと「補償」の語が入るのに対し、通勤災害への給付は「療養給付」「遺族給付」など、「補償」が入りません。使用者が「補償」すべきものではありませんから、当然といえましょう。そういう意味では、通災への給付の財源が100%使用者負担というのも疑問がなしとはしません。なお、業務災害は無過失責任であり、使用者は過失などの責任がなくても補償の義務を負います。

ちなみに、他紙では読売新聞もYomiuri On Lineをみると(http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050422i102.htm)「単身赴任の交通事故死に労災
」と朝日と同様の見出しを立てていて、朝日と同じミスをしているというのは笑えます。産経新聞は「通勤労災」という妙な用語を使っています。NIKKEI NETをみると(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050422STXKE093721042005.html)、共同通信は「通勤災害」と正しく配信しているようです。
まあ、「通災も労災」のほうが常識的なのかもしれませんが、どうも気になるワーディングではありました。