ホリスティックな支援

思いがけず?日経「経済教室」のフォローで一昨日から若年雇用対策シリーズになりましたが、今朝の「経済教室」では、社会学者の宮本みち子氏が欧州の若年雇用対策を紹介しています。

…近年の(EU諸国の)若年者雇用政策の手法は、従来とは変わってきている。…職業訓練の機会を与え、就職へと誘導する従来の手法に対して、…直ちに就職するだけの動機づけのない若者には、ボランティア活動や、音楽・スポーツ活動への参加もキャリア形成のプロセスとして求め、あるいは学校に戻すなど、柔軟性のある学習のプロセスが若年者雇用を成功させるという考え方が主流になってきている。支援の方法も、若者集団を一括して扱うのではなく、一人ひとりの若者の欲求や願望を尊重して設計され、個人ベースのカウンセリングの手法がとられている。…
…このような手法に転じたのは、無業の若者が抱えている問題は複雑で、職を与えればすべてが解決するというような単純な認識に基づく手法は効果がないということがわかってきたからである。…
…いま必要なことは、欧米先進国の経験に学び、若者政策を国の最重要課題のひとつとして位置付け、教育・生涯学習・就労・社会保障・家族・健康医療などを包括した自立支援方策を推進することである。
(平成17年4月15日付日本経済新聞朝刊「経済教室」から抜粋)

論考のなかでは、具体例として英国のコネクションズ・サービスが紹介されています。このような個別的・多面的な支援は「ホリスティックな支援」と呼ばれ、わが国でも注目されはじめているようです。「金融経済の専門家」からは「若者を甘やかすような」と批判されそうですが、事態はそこまで深刻になっているということでしょうか。
さて、論考はさいごに「欧米先進国の経験に学び」と書いていますが、実は論考で触れられたのは欧州の事例ばかりです。米国はどうかといえば、若干ニュアンスが違うようです。
 
米国の若年雇用への取り組みの概況を、神戸大学の三谷直紀先生の論文からみてみましょう。

  • 教室での職業訓練、民間企業での補助つきの職場訓練、職探しの支援などを内容とするJTPAプログラムの評価が低いのに対し、集中的持続的なものには一定の効果がみられる
  • 集中的持続的な支援策の具体例
    • Job Corps:自宅から離れたセンターに1年間居住。基礎教育、職業訓練および修了後の就職支援を含む広範な支援サービスを受ける。非常に集中度の高い対策。
    • Job Start:学校を中退した17〜21歳の若年を対象。矯正的教育、職業訓練、就職支援、その他の支援 サービスを行う。集中度の高いプログラム。

(三谷直紀(2001)「若年労働市場の構造変化と雇用対策−欧米の経験」日本労働研究雑誌490号による)

単なる職業訓練と就労誘導の効果が低いのは欧州と共通ですが、欧州の「ホリスティックな支援」と明らかに異なるのは、その集中度の高さです。単に職を与えても解決にはならないことは事実でしょうが、いっぽうで企業の人材育成力(とりわけ日本企業は中小企業もふくめて高い育成力を持っていると思います)を生かすという観点では、企業での育成に乗って、ついていけるだけの下地を整えることが重要とも考えられます。それを短期で達成するには米国のような集中度の高いプログラムが効果的かもしれません。実際、日本でも厚生労働省が3ヶ月の合宿研修+3ヶ月の職場実習という「若者自立塾」を計画しているそうです。
もちろん、宮本氏の指摘するように若年無業者は多様であり、集中的なプログラムが効果的でない人や、ついていけないという人もいるでしょう。重要なのは宮本氏の主張するとおり個人に合ったプログラムを提供することなのだと思います。
おそらく、日本ではこうした拘束度の高い、強制感の強いプログラムには相当のアレルギーがあるでしょうから、「若者自立塾」も一層の強化や拡大は難しいかもしれません。しかし、単に手厚いだけではなく、集中度を高めることで、早期の就労を達成できる人も多いはずです。帰ってはこない「時間」を大切にすることをもっと考えるべきではないかと思います。