脇坂明『女性労働に関する基礎的研究』

「歌う労働経済学者」脇坂明先生から、『女性労働に関する基礎的研究−女性の働き方が示す日本企業の現状と将来』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

勤労婦人福祉法が男女雇用機会均等法に変わった1986年当時、著者の脇坂先生は決して数多くはない女性労働を研究する経済学者のひとりでした。それ以降、今日に至るまで一貫してこの分野に取り組み続け、2002年の日本型ワークシェアリング、2007年のワーク・ライフ・バランス宣言など政策面でも大きく寄与され、いまや押しも押されもせぬ第一人者のひとりといえるでしょう。
本書は、主に著者自身による過去20年程度の研究の蓄積をもとにまとめられた学術書とのことで、全編を通じて日本企業の職場・現場の実情に根差した調査と考察が積み上げられており、この時期に人事管理の実務を経験した人にとっては説得力のある・納得のいく内容が多いのではないかと思われます。
そして、これをふまえて第8章で示される提言は、わが国企業の「遅い選抜」は「女性活躍を阻む以外はすぐれた慣行」であるとして、それを維持しつつワークライフバランス施策を推進する、というものです。そのうえで、男女がともに能力向上していくよう、(その限界の自覚のもとに)仕事表を活用して各職場のすべての仕事とメンバーのそれぞれの仕事の習熟度を明確化し、ジョブ・ローテーションを促進することを提言しています。「抜本的な改革の提案」みたいなものをご期待の向きには物足りない、というか拍子抜けかもしれませんが、逆にいえば著者が自ら調査した「日本企業の職場・現場」の裏付けのある範囲に自制した良心的な提言ということだろうと思います。
なお今回は「いつまでも燃える紅葉の茜」が登場しなかったのは淋しいといえば淋しいような(謎)。

労務行政研究所『HRテクノロジーで人事が変わる』

労務行政研究所の石川了さんから(だと思う)、同所編『HRテクノロジーで人事が変わる−AI時代における人事のデータ分析・活用と法的リスク』をお送りいただきました。ありがとうございます。

HRテクノロジーで人事が変わる

HRテクノロジーで人事が変わる

AIブームの中、人事管理でもRPAと並んで注目を集めているHRテックですが、安西法律事務所の気鋭の経営法曹・倉重公太朗先生が編集代表となり、「HRテックってなに?HRテックでなにができる?」にはじまり、「どう使えばいい?どこに気をつければ?」といった幅広い論点を豊富な事例紹介を通じて網羅し、技術動向から法的課題まで読みやすく解説した労務行政研究所らしい本です。HRテックの導入・活用を考えている担当者には好適な一冊といえそうです。

経団連『2018年版日本の労働経済事情』

(一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、日本経済団体連合会『2018年版日本の労働経済事情−人事・労務担当者が知っておきたい基礎知識』をお送りいただきました。ありがとうございます。

経団連が2014年以降毎年刊行している、人事・労務部門の初任担当者向け解説書の最新版で、働き方関連法など最新の状況をカバーしています。「労働経済事情」とのことですが労働経済の記述は最初の1割だけで、3分の1以上が労働法制の解説にあてられており、人事管理の解説も充実していて若干書名に偽りありの感がなくもありません(いい意味で)。分量は少ないながらも集団的労使関係や社会保険などの概説もあり、初任者が入門書として座右に置くには手頃な一冊といえるでしょう。その上で、自分の担当分野についてはさらに専門的な解説書で学ぶことが望ましいように思われます。学部の人事管理論の副読書としても適切かもしれません。