天下りあっせん禁止で公務員の採用抑制

きのうの日経夕刊から。

 原口一博総務相は26日、国家公務員の2011年度新規採用について、09年度実績に比べ4割減とする方向で関係閣僚と調整に入る方針を固めた。採用を抑制する人数は約3600人にのぼり、大半は地方の出先機関で対応する。天下りあっせんの禁止で中高年層の雇用を政府内で維持せざるを得なくなったのが主因。総務省は「これだけ大規模な採用抑制は過去に例がない」としている。
 鳩山政権は昨年9月の発足直後に天下りあっせんの禁止を宣言。「肩たたき」といわれる早期勧奨退職が減る一方「退職候補」が省内にとどまる分の定員を増やすわけにもいかず、新規採用の余裕がなくなった。天下り根絶には給与体系の見直しなど抜本的な公務員制度改革が必要なことが改めて浮き彫りになった。

 自衛官を除く国家公務員(一般職)は約28万人で、09年度の新規採用者数は9112人。このうち国土交通省の地方整備局や、農林水産省地方農政局など地方の出先機関による採用が8割を占める。約3600人の採用抑制も8割は出先機関で対応する見通しだ。
 ただ、刑務官など治安分野に関する採用数は維持するなどメリハリをきかせる考え。キャリアと呼ばれる幹部候補生を採用する国家公務員1種試験の採用者も例年と同じ600人前後とする方向で検討する。
(平成22年4月26日付日本経済新聞夕刊から、http://www.nikkei.com/paper/article/g=96959996889DE2E4E1E4E5E3E1E2E0E4E2E6E0E2E3E29F9FE2E2E2E2;b=20100426

天下りあっせんを禁止するということは公務員の人事の流れをそこで遮断するということです。早期退職を止めれば、その影響が上流にさかのぼっていって、ついには採用が止まることにならざるを得なくなるのは当然といえば当然と申せましょう。逆にいえば年に約5,500人は定年や自己都合、その他天下りあっせん以外の事情で退職しているわけで、定員が変わらなければその分は新規に採用されるわけですから、人事が完全に停滞してしまうというわけでもなさそうです。問題は「退職候補」がどのように処遇されているかで、とりあえず現職にとどまり続けているのであれば人材活用という意味では効率的ですが、退職していた場合に較べれば人事はそれだけ停滞します。とりあえずポストは後進に明け渡して、なんらかの別の仕事で内部にとどまっているとなると、人事の停滞は避けられるものの組織の効率は低下を免れないでしょう。現実にはいろいろなパターンが混在していると目されるわけで、場合によっては「天下り」はしないものの退職はしている、というケースもあるかもしれません。というか、1種の採用は減らさないということは、キャリアについては行き先が決まらないまま(というか、実際には決まってはいるけれど政治的に行けないまま)に退職しているケースがかなりあるということなのかもしれません。
だいたい、年間に9,100人が新規採用される、ということは定員が変わらない以上はほぼ同数が退職している組織で、定員はじめ他の人事管理はそのままで退職だけ3,600人絞れば全体がおかしくなることは目に見えています。記事にも「天下り根絶には給与体系の見直しなど抜本的な公務員制度改革が必要なことが改めて浮き彫りになった」とあるように、早期退職をやめたいのであれば人事管理全体をそれに応じたものに見直していく必要があることは明らかです。加えて、人事管理においてこれだけ大規模な変更を行おうとするのであれば、数年間かけて漸進的・計画的に進めていかなければならないことは常識です。天下りあっせんはけしからんからそこだけを今すぐ止める、という現政権のやり方は稚拙この上ないものと申し上げざるを得ないでしょう。天下りあっせんはすべてけしからんというのが本当にそのとおりなのか、私個人は疑問も覚えるわけですが、百歩譲って仮にそのとおりだとしても、「天下りあっせんはけしからんので、現政権は○年かけて責任を持ってなくします。そのために官僚の人事管理はこのように見直します。これを国民に迷惑がかかるような混乱なく実施するための実行計画・工程表はこのとおりです」というものを示すことが必要でしょう。
さて、それはそれとして、これだけ就職情勢が厳しい状況下で、公務員まで採用を絞り込むというのはどうなんだ、という話もありそうです。ただ、天下りをもらえなくなった側には当然それだけ欠員が出てくる可能性があります。これも、受け入れ組織がどのような対応をとるかによるわけで、たとえば現職の理事は任期満了で退任し、新たに天下りで来てもらおうと考えていたけれど、来てもらえないから任期を延長して対応しよう、ということになれば欠員は発生せず、したがって新規採用も行われないということになります。いっぽうで、現職の理事は予定どおり任期満了で退任してもらい、後任は天下りをもらうかわりに内部昇進でまかなおう、という話になれば、それはその後任をさらに内部昇進で、その後任をさらに…ということでめぐりめぐってどこかで新規採用ということになるでしょう。あるいは、理事は任期満了で退任して、後任はいなくてもとりあえず困らないから補充は要りません、ということになると、これは民主党のいう「ムダ排除」にはなるわけですが、やはり新規採用は発生しないということになります。これはそれぞれの組織がそのニーズに応じて判断することになるのでしょうが、いずれにしても従来の人材調達ができなくなるわけですから、人事管理や人材育成のしくみを「天下り」を受け入れることを前提に構築している組織にとっては大きな影響となるでしょう。逆にいえば、必要な組織が本当に必要としている人材をあっせんするのであれば、本人・官庁・受け入れ組織のすべてにとって望ましい話であり、その可能性を考えれば一律即時の禁止には疑問を感じざるを得ないわけです。
今からでも、副作用の大きい一律禁止は解除して、人事管理全体の見直しの構想と、それに向けた工程表の検討に取り組んだほうがいいのではないでしょうか。現状を放置すると、混乱や矛盾は年々拡大していくだけのように思われます。

学生の大手志向に変化

もうひとつきのうの日経新聞夕刊から。

…根強かった学生の大手志向に変化が出てきている。毎日コミュニケーションズ(東京都千代田区)が11年3月卒業予定の学生約1万4800人に調査したところ、「大手企業志向」と答えた学生の割合は前年比4.8ポイント減の47.0%となった一方、「中堅・中小企業志向」は同5.1ポイント増の47.6%となった。
 同社HRリサーチセンター長の栗田卓也さんは「11年卒の学生は、今年になってもリクルートスーツを着て就職活動していた先輩のようにはなりたくないと思っている。その危機感が視野を広げる結果となっている」と話す。
 地方企業への関心も高い。茨城県出身の神奈川大の女子学生(21)は東京や横浜での就職が第1希望だが、「選択肢を広げるために3月から出身地の地元企業にもエントリーしている」。
 リクルートが昨年11月に東京都内で開いた合同会社説明会に地方へのUターン・Iターンフェアを併催したところ、1日で1万800人が来場。同社リクナビ編集長の岡崎仁美さんは「これだけ早い段階で学生が地方企業にも注目しているのは昨年とは異なる動き」と指摘する。
 一方で大手・安定志向が強い親の意識とのギャップが目立つ。まだ内々定が出ていない学習院大の女子学生(21)は1週間ほど前、両親に「今後は積極的に中小企業を受ける」と伝えたところ、「大手の方が絶対にいい」と反対された。経済が不透明な環境だからこそ、我が子には安定感のある大企業で働いてほしいと願う。

 企業規模にこだわらずに活動する学生が増えているとはいえ、その背景にあるのは焦りと不安感。「手駒がなくならないように次々受けるのはいいのだが、自分にとって本当に働きたいところなのか、企業研究がおろそかになっている面もある」(明治大就職キャリア支援部)
 就職活動は内定を得るのがゴールではないということに気づけるかどうか。毎日コミュニケーションズの栗田さんは「自分を見失い、内定を取ることだけが目的になってしまうと、入社後の早期離職につながる恐れもある」と指摘している。
(平成22年4月26日付日本経済新聞夕刊から、http://www.nikkei.com/paper/article/g=96959996889DE2E4E0EBE7EAE6E2E0E6E2E6E0E2E3E29C9C8182E2E2;b=20100426

「今年になってもリクルートスーツを着て就職活動していた先輩」の姿を見て、就職事情の厳しさを客観的に受けとめることができている、ということでしょうか。それに加えて、先輩たちが苦戦した理由のひとつとして、人間の心理として「ここまで大手をめざしてこんなに頑張ってきて、実際何社かはあと一息のところまで行ったのだし…」と、大手中心の就活からの切り替えが難しくななったり、遅れてしまったりしたという実態を見て、それ回避するためにも早期から視野を広く持っておこうという考えもあるのかもしれません。
いっぽうで、親御さんたちが「我が子には安定感のある大企業で働いてほしいと願う」というのも無理からぬところで、これは少子化の進む昨今では従来以上に切実なのかもしれません。教育を投資と考える向きからは、せっかく有名私大に進学させたのだから「大手就職」というリターンが欲しいということだろう、という見解も出るでしょう。そういう中で大学教育はいかにあるべきか…という話に入り込むとキリがなくなりそうなのでやめます(笑)。もっとも、安定志向は子の方も強いわけで、記事で紹介されている毎日コミュニケーションズの調査ではそのあたりも聞いています。学生さんが選んだ「会社選択のポイント(2つ選択)」をみると、トップは「自分のやりたい仕事(職種)ができる会」の43.5%ですが、「安定している会社」も23.0%で、「働きがいのある会社」の20.4%をおさえて堂々の第2位にランクインしています(もっとも、前年に較べると3パーセントポイントのダウンではあるのですが)。まあ、23%しかいないという見かたもできるわけで、やはり親御さんの思いとのギャップはあるということでしょうか。また、「一生続けられる会社」は10.2%にとどまっているので、学生さんとしては景気が悪くなるたびに雇用の心配をしなければならないとか、今は好調でも先行きどうかわからないとかいったことでは困るという程度の「安定」を求めていて、定年までの安定を求めている人はさらに少ないということのようです。このあたりにも親御さんとのギャップはありそうです。
いっぽうで、この調査をみると「これから伸びそうな会社」を選びたいという学生さんは9.2%にとどまっています。古くから「将来性のある会社」というのは就職先選びの重要項目とされてきたはずなのですが、今では上位2つに絞るとなると9割以上の学生さんがこれを外してしまうという状況のようです。将来性があるからこそ先行きの安定も見込める、というのも常識的な考え方のはずなのですが…。
というのも、中堅・中小企業を選ぼうとするときに、将来性はかなり重要なファクターのように思えるからです。これから業界内をのし上がって大手になる可能性の高い中堅企業、これから成長して大企業になる可能性のある中小企業であれば、基本的に人手不足状態のはずなので、大手や大企業と較べても早い段階で大きな責任や権限を付与され、やりがいのある仕事ができ、能力も伸びて早く成長することが期待できそうだからです(もちろん、その分仕事はきついでしょうし、当初は賃金なども大手・大企業には及ばないかもしれませんが)。
現実の問題として、中堅・中小では大企業のように人事異動で仕事や人間関係が変わるということが少ないため、仕事や社風、人間関係がうまくフィットしない場合に退職につながりやすいと言われています。「企業研究がおろそかになっている面もある」とか「入社後の早期離職につながる恐れもある」という指摘もそのあたりを心配しているのでしょう。とはいえ、いかに企業研究したとしても社風や人間関係などの機微に入る部分まではわからないことも多いだろうと思います。そのとき、業績が拡大し、企業が成長しているかどうかということは非常に重要になってくるのではないでしょうか。だいたいそういう会社は職場も従業員も元気ですし、業績のよさは他人を思いやる余裕を生みます。社風や人間関係の多少の問題点は、業績・組織の拡大が十分にカバーしてしまうでしょう。さらに、そうした職場で働き、業績の拡大に貢献したという実績は自信と能力に結びつきます。これは将来転職を考えるときにも大きなメリットとなるでしょう。
まあこれはいたって当たり前のことではあるわけで、結局のところ現状の問題点はそうした将来性・成長力のある企業が少なすぎるというところに帰結するのかもしれません。現状をみれば「成長分野に人材をシフトさせるためにより流動的な労働市場の整備が必要だ」といった主張を一皮むけば「低賃金労働が不足して成長分野が成長できないから、他の分野で比較的高い賃金を得ている労働者を解雇しろ」と言っているのに等しいというのが現実なのですから、将来性のある企業に就職するというのは大手に就職するより難しいのかもしれません。そして、学生さんたちはそれを実感としてよく知っている、ということであれば、まことに遺憾な現状と申し上げざるを得ないでしょう。