学生の大手志向に変化

もうひとつきのうの日経新聞夕刊から。

…根強かった学生の大手志向に変化が出てきている。毎日コミュニケーションズ(東京都千代田区)が11年3月卒業予定の学生約1万4800人に調査したところ、「大手企業志向」と答えた学生の割合は前年比4.8ポイント減の47.0%となった一方、「中堅・中小企業志向」は同5.1ポイント増の47.6%となった。
 同社HRリサーチセンター長の栗田卓也さんは「11年卒の学生は、今年になってもリクルートスーツを着て就職活動していた先輩のようにはなりたくないと思っている。その危機感が視野を広げる結果となっている」と話す。
 地方企業への関心も高い。茨城県出身の神奈川大の女子学生(21)は東京や横浜での就職が第1希望だが、「選択肢を広げるために3月から出身地の地元企業にもエントリーしている」。
 リクルートが昨年11月に東京都内で開いた合同会社説明会に地方へのUターン・Iターンフェアを併催したところ、1日で1万800人が来場。同社リクナビ編集長の岡崎仁美さんは「これだけ早い段階で学生が地方企業にも注目しているのは昨年とは異なる動き」と指摘する。
 一方で大手・安定志向が強い親の意識とのギャップが目立つ。まだ内々定が出ていない学習院大の女子学生(21)は1週間ほど前、両親に「今後は積極的に中小企業を受ける」と伝えたところ、「大手の方が絶対にいい」と反対された。経済が不透明な環境だからこそ、我が子には安定感のある大企業で働いてほしいと願う。

 企業規模にこだわらずに活動する学生が増えているとはいえ、その背景にあるのは焦りと不安感。「手駒がなくならないように次々受けるのはいいのだが、自分にとって本当に働きたいところなのか、企業研究がおろそかになっている面もある」(明治大就職キャリア支援部)
 就職活動は内定を得るのがゴールではないということに気づけるかどうか。毎日コミュニケーションズの栗田さんは「自分を見失い、内定を取ることだけが目的になってしまうと、入社後の早期離職につながる恐れもある」と指摘している。
(平成22年4月26日付日本経済新聞夕刊から、http://www.nikkei.com/paper/article/g=96959996889DE2E4E0EBE7EAE6E2E0E6E2E6E0E2E3E29C9C8182E2E2;b=20100426

「今年になってもリクルートスーツを着て就職活動していた先輩」の姿を見て、就職事情の厳しさを客観的に受けとめることができている、ということでしょうか。それに加えて、先輩たちが苦戦した理由のひとつとして、人間の心理として「ここまで大手をめざしてこんなに頑張ってきて、実際何社かはあと一息のところまで行ったのだし…」と、大手中心の就活からの切り替えが難しくななったり、遅れてしまったりしたという実態を見て、それ回避するためにも早期から視野を広く持っておこうという考えもあるのかもしれません。
いっぽうで、親御さんたちが「我が子には安定感のある大企業で働いてほしいと願う」というのも無理からぬところで、これは少子化の進む昨今では従来以上に切実なのかもしれません。教育を投資と考える向きからは、せっかく有名私大に進学させたのだから「大手就職」というリターンが欲しいということだろう、という見解も出るでしょう。そういう中で大学教育はいかにあるべきか…という話に入り込むとキリがなくなりそうなのでやめます(笑)。もっとも、安定志向は子の方も強いわけで、記事で紹介されている毎日コミュニケーションズの調査ではそのあたりも聞いています。学生さんが選んだ「会社選択のポイント(2つ選択)」をみると、トップは「自分のやりたい仕事(職種)ができる会」の43.5%ですが、「安定している会社」も23.0%で、「働きがいのある会社」の20.4%をおさえて堂々の第2位にランクインしています(もっとも、前年に較べると3パーセントポイントのダウンではあるのですが)。まあ、23%しかいないという見かたもできるわけで、やはり親御さんの思いとのギャップはあるということでしょうか。また、「一生続けられる会社」は10.2%にとどまっているので、学生さんとしては景気が悪くなるたびに雇用の心配をしなければならないとか、今は好調でも先行きどうかわからないとかいったことでは困るという程度の「安定」を求めていて、定年までの安定を求めている人はさらに少ないということのようです。このあたりにも親御さんとのギャップはありそうです。
いっぽうで、この調査をみると「これから伸びそうな会社」を選びたいという学生さんは9.2%にとどまっています。古くから「将来性のある会社」というのは就職先選びの重要項目とされてきたはずなのですが、今では上位2つに絞るとなると9割以上の学生さんがこれを外してしまうという状況のようです。将来性があるからこそ先行きの安定も見込める、というのも常識的な考え方のはずなのですが…。
というのも、中堅・中小企業を選ぼうとするときに、将来性はかなり重要なファクターのように思えるからです。これから業界内をのし上がって大手になる可能性の高い中堅企業、これから成長して大企業になる可能性のある中小企業であれば、基本的に人手不足状態のはずなので、大手や大企業と較べても早い段階で大きな責任や権限を付与され、やりがいのある仕事ができ、能力も伸びて早く成長することが期待できそうだからです(もちろん、その分仕事はきついでしょうし、当初は賃金なども大手・大企業には及ばないかもしれませんが)。
現実の問題として、中堅・中小では大企業のように人事異動で仕事や人間関係が変わるということが少ないため、仕事や社風、人間関係がうまくフィットしない場合に退職につながりやすいと言われています。「企業研究がおろそかになっている面もある」とか「入社後の早期離職につながる恐れもある」という指摘もそのあたりを心配しているのでしょう。とはいえ、いかに企業研究したとしても社風や人間関係などの機微に入る部分まではわからないことも多いだろうと思います。そのとき、業績が拡大し、企業が成長しているかどうかということは非常に重要になってくるのではないでしょうか。だいたいそういう会社は職場も従業員も元気ですし、業績のよさは他人を思いやる余裕を生みます。社風や人間関係の多少の問題点は、業績・組織の拡大が十分にカバーしてしまうでしょう。さらに、そうした職場で働き、業績の拡大に貢献したという実績は自信と能力に結びつきます。これは将来転職を考えるときにも大きなメリットとなるでしょう。
まあこれはいたって当たり前のことではあるわけで、結局のところ現状の問題点はそうした将来性・成長力のある企業が少なすぎるというところに帰結するのかもしれません。現状をみれば「成長分野に人材をシフトさせるためにより流動的な労働市場の整備が必要だ」といった主張を一皮むけば「低賃金労働が不足して成長分野が成長できないから、他の分野で比較的高い賃金を得ている労働者を解雇しろ」と言っているのに等しいというのが現実なのですから、将来性のある企業に就職するというのは大手に就職するより難しいのかもしれません。そして、学生さんたちはそれを実感としてよく知っている、ということであれば、まことに遺憾な現状と申し上げざるを得ないでしょう。