継続雇用の労働条件

今朝の朝日新聞に、60歳定年後の継続雇用に関する記事が掲載されていましたが、こんな記述が目をひきました。

 「職種によって賃金に格差を設けたい」。東京電力は昨年12月、新しい再雇用制度を労働組合に提案した。60歳を過ぎても働きたいという希望者は57歳で退職し、最大65歳まで東電グループで再雇用する。基本年収は現役時の約3分の1の400万円弱。賞与は部門の業績と連動。設計などの専門職は賃金に出来高制の導入も検討する――という内容だ。
 東電幹部は「人件費は増やせない。貢献度に従って賃金が変わるのは当然だ」と話す。雇用契約を早めに切り替え、60歳までに支給されるべき金額を延長期間を通じて受け取るので、毎年の賃金は大きく減る理屈だ。
(平成18年2月1日付朝日新聞朝刊)

ふーむ、なるほど。57歳から60歳まで3年間の賃金を、57歳から65歳までの8年間で払うというわけですね。そうなると、たしかに金額の計算だと約3分の1(8分の3)ということになります。それじゃあ伸びた5年分はタダ働きじゃないか、といいたくなりますが、現実には支払賃金以外にも人件費コストはかかりますから、まあこのくらいが妥当なところなのでしょう。東京電力がどうかは知りませんが、60歳定年を前提にスリム化計画を建てていた企業としては、こうした対応を取らざるを得ないというのはよくわかります。どうでもいいことですが、朝日新聞は「現役時の」約3分の1、と書いているということは、58歳以降は「現役ではない」、貢献が乏しいという認識で書いているわけですね。朝日がそう言うくらいですから、誰が見てもそうなのでしょう。となるとますますこうした対応を取らざるを得ないということに・・・。
それはそれとして、約3分の1で400万円弱ということは、57歳時点で、管理職でなくても(労働組合に提案したのですから当然管理職ではないはずでしょう)年収1,200万円弱に達しているということになります。うーん、さすが東京電力、なかなか優位性の高い労働条件水準のようで・・・。

新卒採用の基準

今朝の読売新聞から。

「もう働く意欲がなえてきた」と、ため息交じりで語るのは、有名大学4年の高橋公夫さん(23、仮名)(東京都内在住)。卒業論文に追われる今も就職活動を続けているが、企業は何を基準に選んでいるのか、就職活動を始めた当初に感じた疑念は膨らむばかりなのだ。
 コンピューターに興味があり、一昨年12月に情報技術(IT)関連企業を中心に回り始めた。どの企業も、欲しい人材像を示すキーワードに「積極性」「協調性」といった言葉を並べた。だが、書類選考を経て8社面接を受け、すべて不採用に。内定の出た友人が「受かった理由も、落ちる理由も分からない」と話すのを聞き、混乱した。
 「何が足りないのか。選考基準が示され、せめて落ちた理由が推測できれば」。焦りと不安が募った。
 厚生労働省の「労働経済白書」(2005年版)によると、新卒者に占める無業者の割合は、1990年には5.6%だったのが、99年以降は約20%と高い割合で推移している。景気の低迷により雇用が縮小しているのが最大の原因だ。
 とはいえ、一部の中小企業では人手不足を訴える声もあり、仕事がないわけではない。限られたチャンスとはいえ、派遣から正社員になれる仕組みもある。無業者の増加がここまで深刻な背景に、あいまいな採用基準で就職に失敗した学生が働く意欲を失っていることがあると言われている。
(平成18年2月1日付読売新聞朝刊から)

なるほど、「採用の基準」ですか。たしかに、(なんでもいいけど、たとえば)「TOEICで800点以上なら採用」とかいう基準があればある意味安心というか、なにをすればいいかわかるから取り組みやすいという気持はわかります。とはいえ、せいぜい4年で出て行く大学生なら入試の点数で単純に合否を決めてもいいでしょうが(それでも問題はわからないのですから、「採用の基準」が事前に明らかだというわけではありません)、さすがに40年近く雇用しようという正社員となるとそうはいきません。
しかも、長期雇用ということは採用してから時間をかけて育てようということですから、どうしても今現在なにができるから、ということよりは、この人はこれからこの会社で伸びていけるだろうか、この会社の仕事の進め方や雰囲気にマッチするだろうか、といったいたって官能的な要素が重視されざるを得ません。さらに、ある程度まとまった人数を採用する企業であれば、画一的な人材を並べるよりは多様な人材を揃えたいと考えるでしょうから、ますます「基準」を示すことは難しくなります。極論すれば、「この人はとてもいいんだけれど、このタイプはすでに何人か内定を出しちゃってるからなぁ」といったことで不合格、ということもありえます。もちろん逆もあるわけで、「この人はかなり物足りないけれど、これまで内定を出した人たちを見ると、こういうタイプも一人はいないとね」ということで合格することだってありうるでしょう。現状の採用活動の期間は比較的短期間に集中していますが、それでも多くの企業は少数であれそれなりに長期にわたって採用活動をしているわけですから、タイミングの問題というのも当然あります。
ですから、企業としてみれば代表的な例として「こんな人は歓迎です」という大雑把な目安を示すことはできても、それ以上に詳細な「基準」を示すことはできないに決まっています。
私は就職と結婚のアナロジーはあまり好きではない(というか、解雇と離婚のアナロジーが嫌いな)のですが、あえて使えば、結婚相手や恋愛の相手について、なんらかの「基準」を決めて、この基準に一致すれば(必ず)結婚します、恋愛しますなんて言い切れますか。これと似たようなものだ、といえば感覚をつかんでいただけるでしょうか。